見晴らしの丘で
静かに時間が流れてゆく。
もっといっぱい話したいことがあったのに、もうそんなことはどうでもいい。
何も話さなくても、ただ一緒にこうしていられるだけでよかった。
すぐ傍に、大切な人がいるという安心感。ただそれだけで。
『今まで……ありがとな。彩葉、大好きだ。元気出して、頑張れよ』
「え……」
たっくん、どうしたの? と振り返ろうとした時、別の方向から名前を呼ばれた。
「彩葉!」
血相を変えて走って来たその様子に驚いて、私は立ち上がってナオのところに駆け寄った。
「ナオ、どうしたの? 息切れするほど走ってくるなんて」
「タクが……」
「え、どうしたの?」
「いいか彩葉、落ち着いてよく聞けよ」
「私は落ち着いてるよ。どうしたのナオ、なんかヘンだよ」
いつも冷静で頼りになるナオ。そんな彼の取り乱して慌てた様子に、少し不安がよぎった。
そして大きく一呼吸ついて、弾む息を抑えるようにナオが話した。
「タクがお前に会いに来る途中、事故に遭って。……病院で今、息をひきとったんだ」
あまりにも突拍子もないナオの言葉に、
「やだナオ、冗談はやめてよ。たっくんなら、ずっと一緒に読書してるよ。ねえ、たっくん」
そう言って振り返った。
あれ? さっきまで背中合わせに本を読んでいた、たっくんがいない。
「え、あれ? たっくん、どこ? たっくん? たっくん? ……たっくん!」
私は夢中で、そこら中たっくんを探し回った。
ベンチの陰や、丘の端に広がる大きな広葉樹の周り。それこそ何も遮るものもないにもかかわらず、『見晴らしの丘』の端から端まで、大好きなその姿を探し求めた。
ナオが止めるのも聞かずに、ただただ、たっくんを探し続けた。
いくら探してもたっくんの姿はない。いくら名前を呼んでも返事は返ってこない。
どういうこと?
きっと2人で示し合わせて私をからかっているんだわ。
そう。そうよ。そうに違いない。
だって、さっきまで一緒にいたし話もしたし、読書だって……。
あれは幻だったっていうの?
いいえ、そんなはずない。そんなはずはない!
そう、いつもみたいに背中合わせで読書もしていたし、彼の温もりは確かに伝わってきた。
一頻探し回ったあと、茫然と立ち尽くす私のところに、ゆっくりとナオがやってきた。
そして静かに口を開いた。
「この『見晴らしの丘』のすぐ近く、角を曲がって後は坂を上るだけのところだったって。信号無視の車にぶつけられたらしい」
ナオの声が、どこか遠くから聞こえてくるような妙な感覚がした。
お読み下さりありがとうございました。
次話「たそがれどき」もよろしくお願いします!




