動画
前頭への連絡も終えたので、今俺が何をしているかと言うと、……いや、まだしていないので、これからしようとしている事は今度のカラオケで歌う曲を増やそうとしているのである。
記憶を取り戻す前に歌っていたのは、主に女性アーティストの歌だったのだが、最近、男性アイドルで人気がある……、まぁ男性アイドルは全員人気があるのだが……、とにかくそのアイドルがライブ映像を公式で動画サイトにあげているらしいので少し参考にしてみようと思っていた訳である。
以前の俺は、世界で一番自分が美しいと思っていたので……、うんまぁ、それについてはどうかと思わなくも無いのだが、なんにせよそう思っていたので歌などは知っていても、その人、歌い手自体には余り興味を持っていなかった。だからどういう人が人気があるのかは余り知らないのだ。
そこで今度の同窓会で人気のあるアイドルの真似等をし、簡単な振り付けをして歌ってみたら盛り上がるのではと考えたのである。
という訳で今俺がしようとしている事の答えはパソコンの前に座り動画サイトを開こうとしているである。
もし、これがクイズならば恐らく誰もがわかった簡単な問題であろう。俗に言うサービス問題と言うものだ。
パソコンが立ち上がり、動画サイトを開く。
カタカタと検索ワードを入力すると件のアイドルの動画が出てくる。……再生回数がすごい数を示している。まだあがってからそんなに経って居ないのに既に十億回を越えていた。アイドルパネェ!
これは期待できるな! 俺はそう思いながら再生のボタンを押した。
おっ、始まった。
少しの静寂の後演奏が始まる。最初の挨拶は無くいきなり演奏からの様だ。
始まった演奏はアイドルらしい曲ではなくテンポの速いロックっぽい曲だ。
そして歌が始まる。
「俺の前に跪け! この雌犬ども!」
そこで一旦、歌が切れ演奏が流れていく。
…………んんっ?
なんか変な歌詞だったような……。
俺の疑問を余所に又歌が始まる。
「夢など追うな! 俺を追え! でなきゃお前の人生意味はねぇぇぇぇぇ!」
そしてステージでは激しいヘッドバンギングに雄叫びをあげるアイドル。
……アイドル? コレがアイドル?
俺の知っているアイドル像とは違うが会場は大盛り上がりである。
「貢げ貢げ! 俺に貢げぇぇぇぇぇ!」
清々しい程の傲慢な態度だ! もうなんか暴君とでも呼べそうな感じである。
そして一曲目の演奏が終わる。
一曲聴き終えたが、今のところアイドル要素は欠片もない! さっきの曲もどっちかと言うとパンクとかヘビメタとかそんな感じの様な……。
”ワァァァァァァァー!”
そのとたん観客席から湧き上がる歓声から人気の高さが伺える。
だが今のところ俺には人気の秘訣はまるでわからない……、わかるのはアイドル凄い! ……いや違うとアイドルヤベェと言う事だけだ。
響く歓声の中、ステージ上のアイドルのMCが始まった。
「今日はお前達の為にこのコンサートを開いてやったんだから感謝しろよ!」
観客席からは”するー!”との返事が返ってくる。
「よーしよしよーし、良い返事だ、グッズも忘れずに買うように」
”買うー!”と間髪入れずに返ってくる。
「これまた良い返事だ! そんなお前達に最近俺が気に入っているドリンクを教えてやろう」
ワァァァーと再度の歓声が会場を包む。
どうしようついて行けてないんだが……。
そして、しばらくアイドルのMCが続きその後二曲目が始まった。
「じゃあそろそろ二曲目行くか! 心して聞けよ!」
もう既に俺の中ではコレを参考にすると言う選択肢は無くなったいるのだが、怖い物みたさと言うヤツで、もう少しだけ見てみる。今度の曲は一曲目とは趣が違い、バラードっぽい音楽が流れてきた。その流れに乗り歌も始まる。
「俺は罪を抱えた~男だ~愛する人よ~許しておくれ~」
……やっぱ歌詞おかしい。
「こんな~にも~! 美しく生まれてきてしまい~全てを魅了するのだから~」
そこで流れていた音楽が止まる。アレっと不思議に思うが直ぐに疑問は解けた。
無意識に停止のボタンを押していたのだ。俺の本能が”もう止めとけ”と止めてくれたのだろう……。
もう一度聞く気も起こらないのでサイトを閉じようと思い画面を見ると、感想が眼に入ってきた。
”私は雌犬、ワンワン!”
”今月も既に給料の大半を貢いだ、来月も貢ぐ!”
”美しいのは罪、納得だ!”
”取り敢えずパンツ変えてくる(*´ω`*)”
”私も(*´ω`*)”
”私も(*´ω`*)”
”私も(*´ω`*)”
ドMばっか!
しかし、しかし! 受け入れられているのはわかった。
大人気である、その事はわかったが俺には真似できない……。
以前の俺なら無意識にあれ以上なドSに振る舞えたが、今の俺は前世の価値観を持っているノーマルな男だどうしても躊躇いが出てくる。だから参考にはなったが真似は難しいな……。
しかし、あれだけ人気って言うことは、あのアイドルは言葉とは裏腹にファンを大切にしているのかもしれないな……、でもあの歌の歌詞はどうかと思う……。
まぁ、なんにせよアイドルはパナイなっ!




