同窓会 (三島 百合)
"タンタンタータラ、タンタンタータラ"
学校が連休に入った最初の日、百合のスマートフォンが着信の音楽を知らせてきた。
別におかしな事では無い。百合も普通の女子高生だ友人と長電話することもある。
百合は中学校で委員長をしていたので、卒業してからも他の高校に行った友人から悩み事を聞いたり、相談を持ちかけられたりする事が多かった。
この時の着信も中学校の友人だったので、遊びの誘いかもしくは、相談事かと思い何の気なしに電話を取った。
「もしもし?」
「百合、今電話して大丈夫?」
電話をかけてきたのは中学校で副委員長をしていた前田 智であった。中学校では委員長と副委員長の間柄良く一緒に仕事をしていた事もあり仲が良かった友人である。
「ええ、良いわよ。どうかした?」
「…………」
「うん?」
わざわざこっちの状況を聞いて来たので、長話になるかと考え、何か相談事があるのかと質問してみたが返って来たのは沈黙であった。
「智どうしたの? 何かあった?」
百合はいつもよりも意識的に優しい声で話しかけた。
友人の様子が少しおかしい事に百合は少し心配になったが、もしこの友人が困った状況に陥っており、その相談の為に電話をしてきたなら話しやすい様に、そして安心させる様に穏やかな声を出した。
もしかしたら新しい高校に馴染めておらず、その相談かも知れない。もしそうならば出来る限りの力になってあげたい。
百合はそう思っていた。しかし百合のその考えは違っていた。
「いいえ、いいえ。違うの……、むしろその逆……」
「逆?」
智の言葉に百合は頭に疑問符を浮かべた。
何かあった事の逆……、つまり何も無かった……。
それは平穏無事に日常を謳歌していると言うことだ。
……とすると今のこの友人の態度はどういう事だろうか?
百合は頭の中で考えてみたが、どうにも答えがわからない。
「ごめんなさい。わからないのだけど、何もなければ良いんじゃないの?」
「いいえ、それは違うわ。このまま何もなかったらどうして良いかわから無くなるわ」
百合は、正直今の状況がどうしたら良いかわから無いと思った。
「……ええと、つまり何かをしたいのよね?」
「……ええ、とてもとてもしたいの。それは私だけでは無くて中学校のクラスメイトは皆思っているの」
その言葉を聞いて、百合はようやく智が何を言いたいのかがわかった。
「も、もしかして……」
「ええ、考えている通り同窓会の開催をします。ついては同じ学校で同じクラスの百合には秦野くんを誘って欲しいの……、何が有っても……」
何が有っても、智が出したその言葉には言い知れぬ迫力があった。まるで餓狼を思い起こさせる様な……。
「待って待って、まだ卒業してからそんなに経って無いわよ」
「そんな事無いわよ。そろそろ皆懐かしいって言っているもの。それにこの事は他の皆の総意だもの」
「そ、そう」
そこで一旦、智は言葉を切る。
「…………」
「……智?」
「中学校は楽しかった……」
「え、ええ、そうね。」
「ううん、多分百合にはわからないと思う……」
「え、なんで? そんな事無いよ」
「だって百合は秦野くんと同じクラスなんでしょう?」
「それはそうだけど……」
確かに琥珀とは同じクラスである。しかし、今の所それが活かされているとは言いがたいのだ。
「あの中学校の生活を知らなければ、高校も普通に楽しく過ごせていたと思う」
でも、と智は言葉を綴った。
「知ってしまった今の生活は終始満たされないの……」
「……」
「この世の何よりも美味しい料理を食べていて、それが食べることが出来なくなった……、でも味は覚えているから求めてしまう……」
皆そんな状況なの……。その言葉を聞いた百合は無意識にわかったと言葉を返し電話を切っていた。
百合は通話が切れたスマホをベッドに放り投げ、自分もベッドに倒れこんだ。
同窓会を行く事は嫌では無い。最初から秦野くんと同じクラスになることが出来たらその人が誘う事は中学の皆で決めていたことだ。
でも、と思ってしまう。
でももう少し仲良くなってから……、そう思ってしまうのだ。
大体今のクラスはエリートクラスと言っても過言では無い、がそれにしてもレベルが高すぎなのだ。特に四大貴族とか訳がわからない。それが二人もいるのだ。しかも顔も性格も良く、更にカリスマ性も持っているのだ。本当にどうにかして欲しい……。
琥珀もそんな二人と仲良くなっているし……、それに加えて金髪のお嬢様やロリっ子とも仲が良い。
正直、中学校が同じなだけで平凡な自分は差を開けられている気がするのだ。
だからこそ同窓会はもう少し琥珀との仲を縮めてから開催したかったのだが……。
そこまで考えて、百合は両手で自分の顔を勢い良く叩いた。
パンパンと良い音が部屋に響く。
「違う! ものは考えようだ! 同窓会を機に一気に仲を縮めたら良いんだ! がんばるぞ! えいえいおー!」
そう言いながら手を上に突き出した。
そして、ゆっくり降ろし顔をさすり呟く。
「……痛い」




