パンフ2
すごいなこの人……。
周りに他の生徒も居るのに平然と土下座を敢行しやがった。どういう精神構造してるんだろう……。
生徒会の人達も突然の行動に静まりかえっているじゃないか。
ここは一つ冷静になって頂きたいものである。
「秦野君どうして…………こ、この人は土下座をしているんだ?」
生徒会長が当然の疑問を聞いてきたが不自然に空いた間はなんだ? もしかして生徒会長もこの人の名前を覚えて無いのか? 生徒会長ともなれば事務方の人の名前を覚えていそうだけど……、まさかな……。
「パンフレットのモデルをしてくれと頼まれまして」
「パンフレット? ああ来年の学校案内か……」
「はい」
「本来なら男性のモデルを雇うならそれなりの費用が掛かるが……」
「まぁ今回だけならそれは良いんですが……」
次も次もと言われても困る。
そう言うニュアンスを感じ取ったのか、頭を下げていた女性は勢いよく頭を上げ言い放つ。
「大丈夫! 一回だけですから! 本当信じてください!」
……どうしよう、余計に胡散臭くなってきた。こういう事言うヤツは大抵二回目も要求するんだ。
別に前世での実体験などでは無い。更に付け加えるなら俺が言ったなんて事実は無い。
しかし何というか……、この必死さに感じる物があるな、働くって大変だよね。
「うーん、今回だけですよ」
俺はこの必死の要請に応えることにした。
俺も甘いなもっとこう……、飴と鞭を使い分けられるようになりたいんだが……。
難しい! さじ加減とかがイマイチ掴めていないような気がする。うーん。
まぁ良いか、取り敢えずは目の前の仕事をこなすことにしよう。
俺の返事を聞いた女性は信じられないと言った驚愕を浮かべた顔をしてこちらを見ていた。
そしておもむろに手を合わせて握りしめると
「神よ……」
祈りだした。
一応言っておくが俺は神では無い。
周囲の生徒達も祈りだした女性を変な物を見る目で見ていた。
……当然だと思う。
「と、取り敢えず、え……っと、立ち上がりましょー」
「そうね、えと……、うん、立ち上がってここの席に座ってください。お茶を用意しますから」
副会長二人が祈っている女性に話しかけ、席に着くことを勧める。
この人達のこの反応……、会ったことは覚えているけど名前覚えていない反応だな。
誰も名前を呼びやがらねぇ……。取り敢えず俺もこのまま行けるとこまで行こう。
「ありがとうぞございます。あっお構いなく」
副会長達の言葉を受けて女性は立ち上がり椅子に座る。座席の位置はちょうど俺の対面である。
席に座った女性は俺を見て笑顔を浮かべる。
「改めまして、依頼をお受け下さりありがとうございます」
「ああ、いえ……」
「これで来年の受験者数は激! 増! です」
女性は握り拳を作り力説する。
パンフに載っただけでそんなに効果あるのかな。
そりゃあ少しは増えると思うけど。パンフだけ手に入れて受けに来ないって事もあると思うけど……。
俺はそんな疑問をぶつけることにした
「そんな凄く増えるんですか?」
「もちろんです! 秦野さんの写真を見てこの学校に来ないなんて事考えられません!」
「そ、そうですか……」
「ええ! パンフで秦野さんの写真を見た少女達はこう思います……。絢爛高校に行けばこの写真の男の子に会える! あわよくば親しい関係になることが出来るかも知れない! と」
「まさか~」
「まさかではありません! だって私だったらそう思いますもん! 彼女たちだってそうですよ!」
女性はそう言いながら勢いよく立ち上がりバッと腕を広げ周囲の生徒会の女子も同じだと言い放つ。
俺がメンバーを見回すとウンウンとみんな頷いている。
……この世界の女子って単純すぎないか? それで良いのか……。
俺が女子達の人生の行く先を心配していると。
椅子に座り直した女性は続けて言う。
「まあ、入学してもこの学校は恐ろしく広いので、親しくなることはおろか見かけることも難しいかも知れませんが……、ささいな事ですよね」
「…………」
……黒い。
せっかく頑張って勉強し高い学費を払って入学して、有るのがこの事実。新入生は泣くんじゃないか……?
……そうすると説明会に同行しても同じか? いや説明会はパンフみたいに数は多くないから大丈夫か。魅力を説明するだけだしな。
「撮影する日程は決まっているんですか?」
「いえ、秦野さんが受けてくれるか不明でしたのでまだ決まっておりません。秦野さんがいないバージョンのデザインならラフで有るんですが、受けてくれるとなった今ならデザインから変える必要が有りますから改めて撮影の日程を決めてお知らせ致します」
俺がわかりましたと返事をすると女性は部屋を出て行った。
「私たちもパンフレット貰うことができるかなー」
「どうかしら、でも学校のホームページには上げると思うからそこで保存しましょう!」
副会長の桂川さんの提案に他のみんなもその手が有ったかと納得の顔を浮かべている。
その様子に俺が微妙な顔をしていると肩をポンと叩かれ振り向くと、そこには会長が優しい眼で俺を見ており、その眼は”頑張ってくれ”と語っていた。
引き受けるんじゃ無かったかもしれない……。




