親
扉を開けたら土下座をした女性か……、二回目だな……。
目の前で土下座している女性に俺が掛ける言葉は一つしかないな。
「間に合ってます」
俺はそう言いドアを閉めた。
閉める瞬間"えっ、ちょっ!"って言葉が聞こえた様な気がしたが、おそらく気のせいだろう。そもそも、いきなり土下座する大人なんて厄介な人に違いない。厄介な大人は供給過多なのでお帰り頂きたい。
しかし、部屋の外の人物は諦めなかった、閉めたドアをドンドンと叩き、必死にこちらに呼び掛けてくる。
「すいません! すいません! すいませーん!!」
ちっ、諦めないか……、まためんどくさい事になりそうだ。
「……なんですか?」
「うっ!」
めんどくさいと言う事が顔に出ていたらしく、外の人物は俺の顔を見て、少し後ずさった後おずおずと話し出した。
……身長は高いが割りと繊細な人なのかも知れない。
「あ、あの私の娘がご迷惑をお掛けしたと聞きまして……、そのお詫びに参上した次第で……」
「娘……、えと舞澄さんのお母さんですが?」
「はい、舞澄 セリナの母です。この度は娘がとんでも無いことをしでかしまして申し訳ありません」
そう言って、舞澄さんのお母さんは深く頭を下げた。
「ああ、いえ、偶々間違えただけどと思いますので気にしないで下さい。大事にするつもりも有りませんので」
「ありがとうございます」
俺の言葉に再度頭を下げる。
「それで、その……、娘がこちらへお邪魔していると聞いたのですが……」
「あ〜」
……さて、どうするか、普通なら娘さんを連れてくるか、部屋に上がってもらうべきなのかも知れないが……、今この人の娘さんは簀巻きで転がされている状態である。
どうすればいいのか……、前世でも簀巻きにされた女の子の母親への対応の仕方なんて経験ないからな……。むしろそんな経験ある人はヤバイな。
「あの……?」
俺が返事をしないので不思議そうに声を掛けてきた。
「あーはい、居ますよ。大丈夫です五体満足ですから」
「……あの、中で何が?」
やはり、娘さんが心配なのか不安気な顔で聞いてくる。
「何が?」
「えっ、ええ」
「…………」
「えっ、本当に何されてるの!?」
「簀巻きになっています」
「すまっ! ……簀巻きかぁ、簀巻きならまぁ良いか」
良いのか……、やっぱりこの人もちょっとアレな大人の様な気がする……。
取り敢えず、部屋の中へ入って貰うか……、相手方の親御さんが来たら家の保護者達も落ち着くだろう。……まぁ、あの人達が今しているのは俺へのセクハラだけどな!
俺は舞澄さんのお母さんを連れて、部屋に戻る。案の定、部屋の中で行われていたのは簀巻きにされた舞澄さんを囲んでの事情聴取という体を取った俺の裸の感想を聞き出しである。
……菊水さんも参加してやがる。感想を聞かれている舞澄さんはこちらが心配になるほど顔を赤くし、涙目で質問に答えている。
……しかし泣きたいのは俺の方である。何が悲しくて保護者に自分の身体の事を根掘り葉掘り聞き出されなければいけないのか……。思春期の少年に大きなトラウマを植え付けたいのか!
「あっ、琥珀君! やっぱりこの子偶然って言いながらしっかり見てたわ!」
「はい、私たちが責任を持って確認いたしました。有罪です。このまま山に捨ててきましょう」
「なな生々しかったです……」
生々しい言うな……。
「あれ、そちらの方はどなた?」
「こち……」
「申し訳ありませんでしたー!」
母親の質問に俺が答える前に、舞澄さんのお母さんは保護者三人に向かって土下座をした。
その行動に三人も驚いた顔をし俺に説明を求める視線を送ってきた。
「こちらは今そこで簀巻きになっている舞澄さんの親御さん」
俺の説明に納得したように三人が頷く。
「ほう……、それでは落とし前を付けに来たと言うわけですね……」
「本当、良い度胸しているわ」
ふふふ……、と不敵な笑顔を浮かべている母親とマリアだが、あんた等もう十分楽しんだだろうに……。
まだ、追い込むつもり満々の二人に俺は止めに入る。
「こうして、きちんと謝罪に来てくれたんだから、もうこの件はおしまい。簀巻きも解いてあげて」
俺のその言葉にマリアが反対してきた。
「そんな! 男性の裸を見て頭を下げただけで終わりなんて不足過ぎます!」
「わざとじゃ無いんだから、少しぐらい寛大でも問題は無いし」
「それでも見られた事には代わり有りませんよ!」
「それを言うなら、見られた本人が終わりって言ってるんだから良いんだよ」
そのやり取りを聞いていた母親はパチンと手を鳴らし宣言した。
「じゃあ、もうコレでおしまい。わざとじゃ無いみたいだし、琥珀君もこう言ってるしこの件はもう終わり! マリアも納得しなさい」
「洋子様、……解りました」
「お母さんも頭を上げてください」
「……はい、ありがとうございます」
おお! 母親が母親らしく場をまとめた、珍しいな!
「じゃあ簀巻きももう解いてあげて」
俺がそう言うとマリアが舞澄さんを解放していく。解放された舞澄さんは”よかったよ~、よかったよ~”としきりに呟いている。俺はそんな舞澄さんに近づき様子を見る。
「大丈夫?」
「ううっ、琥珀さん!」
俺が近くに来たことで安心したのか、思わずといった感じで抱きつこうとしてきた、してきたが……。
「ほう……、私の目の前でそんな不埒な行いが出来るとでも?」
一瞬にしてマリアに首を決められ止められていた。
「ずびばぜん、ずびばぜん」
止められた舞澄さんは必死に謝っている。
……まぁなんだ、全然元気だな!




