パン屋2
俺が部屋に戻って二十分程後に、鋼城さんは帰ると言うので部屋から出て見送りをする。その際、
「すぐにお側に参りますので」
という言葉と熱い視線をいただいた。
……無理しなくていいですよ?
あの忠誠心は若干の恐怖を感じる。
会って間もないと言うのに、鋼城さんが言った言葉に嘘が無い上に、全て本気だとわかってしまう程に彼女の熱意を感じるからだ。彼女にそこまでに影響を及ぼした”メイドの主はご主人様”ちょっとタイトルがアレな感じなマンガもどれだけだよ! って感じである。
そんな思い込みが激しい系女子である上に、メイドな鋼城さんとの話が終わった時には既に,時間は一時を回っていた。
お腹も空いてきたので、昼ご飯にカレーを温めるか。
このカレーは、昨日の晩作った物である。正直作れる物はそんなに多くないので、失敗が無く,なおかつ数日続けて食べることが出来る料理を選んだだけなのだが、この手作りカレーを見たとき、母親はこちらが引くぐらい喜んでくれた。
そして、おいしい! おいしい! と食べてくれた。
確かに、カレーは誰が作っても美味しく出来るが、そこまで喜ばれたら悪い気がしない。
ハッ! これが胃袋をつかむということか! 確かに、あの時にお願い事をしたら何でもきいてくれそうだったな……。
……使えるな、コレ。
やはり料理は女性を引きつける大事なファクターだ。これから勉強していこう。
「お母さん、お昼カレーで良いかな?」
「いいよ、いいよ。琥珀君が作ってくれたカレー、凄く美味しいし。私会社行ったら、みんなに自慢するよ!」
それは止めろ!
カレーを火に掛け、お玉でぐるぐると焦げないようにかき混ぜる。
そう言えば、セクハラパン屋に人が多そうな時間帯に一度行くって約束してたな……、ご飯食べたら行ってみるか。
ちょうどカレーも温まったので、二人分器によそってお昼ご飯にする。
二日目のカレーも美味しかった。
九月も下旬だが、まだ残暑が厳しくかなり暑い。
Tシャツとジーンズで良いか。いくら魔性の男を目指すと行っても近所だし、別に変な格好をしている訳じゃないから、そこまでオシャレしなくても大丈夫だろう。
クローゼットを開けて中の服を見ていくが、上はともかく下はスカートが多い。この世界の制服はほとんどスカートだが、私服はズボンもきちんと売っている。
しかし基本男女同じデザインの物を使っている。違うのはサイズだけである。だから俺の私服にスカートが多くてもおかしくない、というか以前の価値観だったらズボンを履く方がダサイと思っていたのだ。だから俺の持っているズボンの本数が少ない訳だが……
こんど服を買いに行ったときに、ズボンを多く買っておこうと心に決める。
着替え終わり、母親に声を掛けて家を出る。
「お母さん、ちょっと出てくるね」
「いってらっしゃ~い、変な女にほいほいついて行っちゃ駄目だからね」
「大丈夫だよ、いってきます」
……いやでも、変な女に会いに行くのか?
そんな疑問を抱きつつ、パン屋への道程を歩む。
残暑が厳しく、家を出てすぐに、少し汗ばんでくる。
段々人通りが、多くなるとやはり注目を集める。そうすると自然と辺りの反応が耳に入ってくる。
「男の子がこんな日差しの中居るの珍しいわね」
「あの子、日焼け大丈夫かしら」
「汗ばんでいる美少年……、ごちそうさまです」
「あぁ、あの子の匂いを嗅ぎたい……」
「私は、あの汗を舐めてみたい……」
等など、様々な意見が飛び込んでくる。……変態的な意見もあるな。
信じられるか? これ言ってるの、全員美女、美少女なんだぜ。
変態美少女……、残念ながらこの世界では需要はない。
本当に残念である。前世だったら引く手数多だったかも知れない。
そうこうしている内に、お店に着く。
お店の名前は、”小麦の里”軽く覗いてみると、結構なお客さんが入っている。カウンターを見てみると、セクハラ店員では無い人が居た。
まぁ約束だしお店に入って買っていこう。明日の朝の分だな。
ドアを開けるとベルが鳴り、お店の中にいたお客さんが入り口の方を見るが、すぐに興味を失ったかのように、またパンを選び出す。そして……
全員が二度見をする!
怖いよ! なんで全員一緒のタイミングで見んだよ!
店内がざわつき出す。
「えっ、此所って男の子がわざわざ自分で買いに来るほどおいしいの?」
「パンは確かにおいしいけど、男の子が自分で来るってのは初めて知った……」
「今日は良い日だ」
反応を聞くと、確かに宣伝になりそうだ。
ざわつき始めた店内に気づいたのか、奥から店員が出てきた。
グレイの髪のかわいい印象の女性。……セクハラ店員である。
「わぁ、来てくれたんですね。待っていました」
まるで常連客が来たように親しげに話し出す。おかげで周りも俺がこの店の常連だと勘違いしだす。
まだ二回目なのに……。
「えっ、ええ約束しましたから」
「嬉しいです、あの日からいつも作っていたパンが有るんです。見てくれますか?」
「あっ、はい」
セクハラ店員はそういって奥に引っ込む。
なんだ特別なパンか? おいしいやつか? 高級な素材を使ったやつか? 少し楽しみだ。
「これです!」
戻ってきたセクハラ店員が出してきたパンに、店内の客が驚く。
「すごい……、この脈動感」
「なんか生き生きとしてるわ」
「食べるのがもったいない」
「ずっと見ていたいよ」
持ってこられたパンは人の形をしたパンだった。
……率直に言えば、俺をモデルにしたパンだった。何故かパンツ一枚でポーズを取っていたが。
「これは貴方の為に焼いた物です。最初に会ったときから毎日焼いていて、貴方が来た時に食べて欲しいと思ったんです。どうぞお納め下さい」
いるか! 自分をモデルに作られた物なんか食べたくないわ! しかも良くできてるのがむかつく! なんでパンイチなんだよ! おかしいだろ!
その事をセクハラ店員に伝えると、ガーンとショックを受け肩を落とす。
しかし、俺がいらないと言ったことを聞いた、他のお客から是非に売って売れと次々に言われ、しょうがないのでコレのみ販売を許した。
セクハラ店員には、これ以後作る事止めるように厳命した。そして始まる美少年のパンイチパンのオークションが開催され。
最終的に六万ジェニーで落札された。
値段が止まらなかったので、モデルによる強制終了であった。




