めでたい頭
遅くなって申し訳ありません。
カルロは泣き喚くマリーシアを苦い顔で見ていた。幸か不幸か、現在カレンディラは王子に呼ばれて王宮にいる。まあそちらはいつものことだ。だから約束もなくユシュアン邸にやって来て泣き喚きはじめたマリーシアの対応は、カルロがした。放置したかったのだが、マリーシアがうっかりカレンディラの不利になることを喚かないか心配だったので、渋々応接室で共にいる。しかしカルロが苦い顔をしているのは、もう一つ理由があった。それは、
「マリーシア様、お可哀想」
彼女の隣で(何故か)涙ぐんでいる、妹のエリエーデだった。
何故かやって来たエリエーデが、マリーシアの隣で話を聞いていた。カルロからしてみれば、単なる自業自得なのだが、エリエーデから見ると可哀想らしい。そしてマリーシアはそんなエリエーデに心中を吐露している。大変楽なのだが、その内容は聞いててひどく気分が悪い。
「ナツキ様は絶対カレンは呼びたくばいって。それでカレンのことをひどい言葉で罵ったから、私カッとなってしまって。何も知らないくせに、そんなこと言わないでって言ったら、ナツキ様も」
マリーシアの話にカルロはほーうと思いながら、ナツキに報復を決めた。しかし同時にマリーシアに対しても嫌悪した。この女は、カレンを利用したという自覚がないのだと改めて理解した。
本当に何も変わってない。幼少時から、何も。
だから友達がいないんだ。でもきっと、そんなことも分かってないんだろうな。
目の前で引き続かれる気分の悪い話に、カルロは小さく鼻を鳴らした。
やがて終わった会話の後、マリーシアは笑顔でエリエーデに言った。
「今日はありがとう、エリエーデさん。よかったら、貴女も私の結婚式に来てくださいな」
「ありがとうございます!」
その結婚式、出来るのかよ。
シラけた顔でカルロは思いながら、二人の様子を眺めていた。
彼女のいいところ。好きなところ。純粋なところ。しかしその純粋さゆえに、あんな女を慕っている。その目を覚まさせてあげたかったが、大人しい彼女が声を荒げて反発した。
ナツキは自室に篭り、考えていた。なんであんなにも、マリーシアがあの女を慕うのか。考えて、ふと気付く。そういえば、マリーシアは他に招待したい友人の名をあげなかった。そこから推測されることは、一つ。マリーシアにはカレンディラ・ユシュアン嬢以外の友人がいない、ということ。
あんなに優しく、純粋でいい子なのに。何故? 理由にはすぐに行き着いた。おそらくカレンディラ・ユシュアンが原因だ。あの女が、マリーシアを孤立させたのだ。そうとは知らず、マリーシアはカレンディラを慕っているのだ。健気な婚約者を想い、ナツキは決意した。
今からでも遅くない。マリーシアに友人を作ろう。そうすれば、きっと。いかにカレンディラ・ユシュアンがひどいかわかるはずだ。
同僚の騎士の兄弟に妹や姉がいないか聞こう。その前に、仲直りをしなくては。
ナツキはすぐさま自室を出て、早速行動した。しかし翌日から、何故か異常なまでに書類仕事が入り、家に帰るのはとっぷりと夜が深まった頃や、帰れないということも発生。膨大な書類に殺されるかと思った一週間だった。もちろん、その間、マリーシアには会えなかった。そしてカレンディラにも会わなかったことを、忙しさのせいかナツキは気づかなかった。
第3章終了です。




