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悪役令嬢はお人好し  作者: 悠雨
第3章
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二人の密談

本日2話目です。


「あら、遅れてしまったかしら?」

リーリアの希望で、カレンディラは彼女に砕けた言葉で話す。もちろん人目のあるところではしない。

「まさか。時間より少し早いわ。でもね、私が言いたいのはそうじゃないの」

自分の対面の長椅子へカレンディラを座らせて、リーリアは横を向いて言った。

あの子(・・・)が来てから、カレンあんまり私に構ってくれないのだもの」

妹ポジションは、私のものだったのに。

カレンディラはくすっと笑った。それを見てリーリアが唇を尖らせる。

「ちょっと」

「ごめんなさい。可愛くて、つい」

カレンディラにとって、リーリアは確かに妹のような存在だった。しかしやはりどこか遠慮のようなものを考えてきた。配慮だとか。リーリアは王家の姫君。カレンディラはその辺りを弁えていた。そのせいかある程度砕けた物言いになっても、リーリアはカレンディラとは距離を感じていた。

「でも、私は本当にちゃんとカレンの妹になれると思ってたのに」

だからこそ。その日を楽しみに待っていたというのに。小さな呟きにカレンディラは少しだけ顔を強張らせた。リーリアが浮かべた表情は俯いているので、わからない。膝の上に置かれたリーリアの手がぎゅっと拳を作った。

「昨日、兄上バカがルルーシュ嬢を正式に私に紹介しに来たの」

リーリアが勢いよく顔を上げた。その目は怒りで燃えていた。

「あのバカなんて言ったと思う!? 『恋人のルルだ。仲良くしてくれ』とかほざいたのよ!?」

「リーリア様。言葉遣い」

「私は子供じゃありませんし、誰かと違って頭の回転も早いから! その場はにこやかにご挨拶したわ! でも!」

「リーリア様」

声を荒げたリーリアに、カレンディラはただ静かに彼女の名を呼んだ。リーリアは一度唇を噛み、それから心底悔しそうに言った。

「本気で、次の王位は私が貰ってやろうと思ったわっ」

「貰えばいいじゃない」

あっさりと告げたカレンディラに、リーリアはぽかんと口を開けた。

「え?」

「ルルーシュ様の登場で、意見は大きく割れたわ。わたくしをそのままジークの婚約者に据えるかどうか」

全てカルロが仕入れた情報であるが、頼めばカルロは難なく見せてくれる。カルロの理由は例外として、カレンディラとジークセイドの婚約を解消した方がという意見は多くなっている。当初はカレンディラが可哀想という意見も中にはあったそうが、カレンディラがナツキの追っかけ(仮)を始めた頃にはなくなったそうだ。

しかしそんな意見で一番多いのは、ジークセイドはルルーシュと臣籍を与え、リーリアとカルロを婚姻させ次の王とする意見である。そしてカレンディラが公爵を継ぐ形。

「リーリア様がその気になれば、事態は一気に動くわ」

リーリアは渋い顔で黙り込んだ。少しして、ポツリとリーリアは言った。

「……やっぱり、カルロと結婚しなきゃいけないのね」

「あら、カルロは嫌?」

「ええ」

一切迷いのない言葉に、カレンディラは苦笑した。

「結婚相手にはちょっと」

「わたくしは、あの子にはリーリア様しかいないと思っているのだけれど。そんな嫌そうな顔をしないで」

明らかに歪んだリーリアの顔に、カレンディラは苦笑した。おそらくカルロに言っても同じような反応が返ってくるのだろう。

「けれど、そう決定されれば私やカルロの意思なんて関係ない。なのにどうして事は進んでいないの?」

ハナから、リーリアは恋愛結婚が出来ると思っていない。物語のような恋に憧れていなかったと言ったら嘘になるけれど、バカのサマを見て色々冷めた。それにそうしろと命じられれば、拒否権などない。それなのに未だにジークセイドは王太子でカレンディラはその婚約者だ。

「面倒な手続きは多いけれど、出来ないことではないわ。なのに、何故?」

リーリアの問いにカレンディラは息を吐いた。これについては、カルロですら首を振った。

「ユシュアン公爵が、何も言わないの」

王太子の現婚約者のカレンディラと、姫殿下の一番の婚約候補の父親で、現在最も王家と血が近い公爵家の当主で自身も王位継承権を持つ。コンラッド・ユシュアン。彼は常に何も言わず沈黙をしたままだと。

カレンディラは父親と仲が良くない。元々カルロほど構ってもらった記憶はないが、エリエーデの件で母親を追い出したのが元よりあった溝を深めた。父は母を愛していたから。たとえ不貞の果てに、子までなされたとしても。

「あの人の権限は大きい。何を考えているかは分かんないけれど、彼についた方の事が進む。それだけは確か」

カレンディラの口調はとても淡白で、実の父親のことを語ってるとは思えなかった。

「……そういえば。カレン、私に聞きたいことがあるのよね?」

話題を変えたくて、リーリアはそう尋ねた。カレンディラは笑顔で頷いた。

「そうなの。大丈夫かしら?」

「もちろん」

「ありがとう。実はね」

カレンディラの相談に、リーリアは思わず口元を押さえた。信じられない、とその目が語っていた。

「カレン、嘘でしょう?」

「あらゆる事態を想定しているの」

カレンディラは否定はしなかった。

「カレン」

「無理にとは言わないわ。でも、カルロには秘密にしておいて欲しいの」

それだけは、お願い。

リーリアは瞳を揺らす。それでも一度瞼を閉じて開けた時には、どこか諦めたような色を浮かべていた。

「分かったわ」

「ありがとう」

そこからは、他愛のない話。流行りのドレス、お菓子。少しだけ(他人の噂で)恋話。

「今日はありがとう、リーリア様」

「こちらこそ。またお話してね、カレン」

礼をとり出て行ったカレンディラを見送って、リーリアは小さく呟いた。

「結局いつまでも、様付けなのね」

何度言ってもそれだけは。取ってくれないのだ。

「兄上のことは、ジークなのに」

ああ、狡い。


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