少女の行方
「ねえ、エリエーデ。わたくし、もういらないと思うの」
家の者の目を盗みカレンディラがエリエーデの部屋に訪れたのは、シェルア召喚した翌日。人の目がないので姉妹はにこやかに会話をした。もし誰かに見られたら、噂との違いに目を剥くほどである。
「姉様がいらない?」
首を傾げたエリエーデに、カレンディラは簡潔に告げた。
「貴女はもう充分上手くやれているでしょう? だからわたくしがいじめる必要はもうないんじゃないか思うの」
「分かったわ! じゃあこれからは普通に仲良くしましょう!」
アッサリとエリエーデは頷き、カレンディラの手を取った。カレンディラもにっこりと笑い、首を振った。
「それは出来ないの」
はっきりとそう告げたカレンディラに、エリエーデは目を大きく見開いた。
「どうして!?」
「今まで険悪だったわたくしとエリエーデが突然仲良くしだすのはとても怪しいでしょう? 理由なんか話してしまったら、今までの苦労が水の泡。さらにいじめるのを突然やめても不自然ね。一番いいのはエリエーデがわたくしに歯向かってわたくしが負ければ、いじめる必要がなくなる正当な理由が出来るのだけれど」
「そういえばユージンたちが『安心しろ。時期に俺たちが助けてやるから』って言ってきたの」
「……それを貴女がわたくしに言っちゃうのね」
「だって姉様のがどうにかしてくれるもの」
「彼らのどうにかする対象はわたくしよ?」
大丈夫だろうか。そんな疑惑にカレンディラはかられた。実はエリエーデに姉様ちょろいから大丈夫かなと思われていることを、彼女は知らない。
「ユージンたちがなんでわたしに構ってくるのか、実はよくわからないの」
突然困った顔でそう言いだしたエリエーデに、カレンディラのが困惑した。
「エリエーデのことが好きだから構うのでしょう?」
「でもそれぞれは皆仲が悪いの。わたしいっつも困ってるんだから」
どうすればいいと思う? と問われ、カレンディラは律儀にも考えた。
「エリエーデは誰と一番仲良くしたいの?」
「いつも一緒にいてくれる四人にはいないんだけど、たまにしか話さない子ともっと話して仲良くなりたいと思ってるの」
調べたところ。昨日シェルアが名を挙げた四人は、エリエーデのことを『姫』呼びそれはそれは可愛がっているらしい。しかし彼らの姫は、この有様である。カレンディラは四人がちょっと可哀想になった。
「……とりあえず、表立って仲良くは出来ないけれど、一度嫌がらせは止めるわ」
カレンディラはそのままエリエーデの部屋を出た。またいらしてね、というエリエーデは文句なしに可愛く、少し複雑な内心だがにこにこと部屋を出れた。
思った以上にゴタゴタしていたエリエーデの周囲に、カレンディラは放っておこうという結論を出す。どうせ何も出来やしないのだから。
行きと同様人目避けて自室に戻ったカレンディラは、即座に侍女を呼び便箋とペンを運ばせた。
「さて」
いくつかの顔を思い浮かべながら、カレンディラは手紙をしたためた。やれることはすぐにやらなくては。
一つだけ。カレンディラには杞憂があった。最も悪い状況に陥ること。けしてないとは言い切れないその状況にいつか陥った時、迅速に対応するために。
「用心はしすぎることはありませんもの」
したためた手紙を封筒に入れ、宛名を書いて侍女に渡す。そのあとは出かける支度をして、カレンディラは王城へと赴いた。今日は別にジークセイドにも、マリーシアにも頼まれた日ではない。別の約束である。カレンディラが訪れたのは、
「ご機嫌よう、リーリア様」
「遅いわ、カレン」
白を基調として整えられた部屋で、ぷうっと頬を膨らませたリーリアが、カレンディラを出迎えた。




