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悪役令嬢はお人好し  作者: 悠雨
第2章
12/18

お呼び出し


シェルア・ゴルゴア

ゴルゴア伯爵の末娘。男ばかり四人のあとの女の子なので、家族からはとても可愛がられてきた。

性格は控えめで大人しく、聞き上手と評判。容姿は性格の通り、優しげな風貌。美人というよりは可愛らしいタイプ。性格美人らしい。

年齢はカレンディラの異父妹エリエーデと同じで、現在教養学園に通っている。エリエーデとはあまり関わりはないが、シェルアと仲の良い友人はエリエーデの取り巻きをしているらしい。『聞き上手』の通り、彼女はその友人から『何か』を聞いた可能性がすこぶる高い。

「ありがとう、カルロ」

報告書を胸に抱いて、カレンディラは微笑んだ。その笑みを見てカルロは嬉しそうに笑った。カレンディラの行動は迅速だった。夕刻に手紙が届き、晩餐前にカルロに調べて欲しいとお願いすると、就寝前にはシェルアについて報告書が上がっていた。

「カレンの頼みなら、俺はどんなことでも叶えてみせるよ」

「うふふ。ほどほどにね」

笑顔だが目が真剣なカルロに、カレンディラはさりげなく釘を刺す。あの人いなくなればいいのに、なんて口走った日には、翌日にはその人本当にいなくなるだろう。有能な弟は助かるが、有能すぎても困るとカレンディラは小さく苦笑した。

「カレン」

「なあに?」

「俺はカレン以外どうでもいいから」

「……もう遅いから、わたくし失礼するわ。遅くに本当にありがとう、カルロ。お休みなさい」

そのまま退室しようとしたカレンディラの腕を、カルロは掴んだ。

「カレン」

「今は、それ以上先は聞きたくないの」

やんわりと、しかしハッキリとカレンディラは拒絶し、カルロの手をほどいた。手はあっさりと離れた。

「……分かったよ。お休み、カレン」

「聞き分けがよくて大好きよ。お休みなさい」

カレンディラが退室したあとで、カレンディラの「大好きよ」の部分だけを、その夜カルロは脳内で延々にリピートし続けた。興奮で眠れなかった。

翌日は寝不足で辛かったが、カルロはクマの酷い顔でしかし満ち足りた表情を浮かべ続けた。


さて。

自室に戻ったカレンディラは、シェルアについて考えた。

敵意はないのだろう。エリエーデが大好きだからいじめるカレンディラ嫌い大嫌い排除するという思考に至ってはいない。しかしわざわざカレンディラに手紙を寄越したのは何故か。本当に悪役わたくしに危険が迫ってると? カレンディラは笑った。

「悩むより、本人に聞く方が早いでしょう」

カレンディラはいま、見事な悪役の微笑をしていた。


翌朝、ゴルゴア伯爵邸に一通の手紙が届く。末娘のシェルア宛に届いたのは、ユシュアン公爵家の家紋の入った手紙。震える手でシェルアは手紙を開けた。それは召喚状。送り主は、カレンディラ・ユシュアン。

シェルアは指定された日に、参上した。その日はちょうど空いていた。

「ようこそ、シェルア様」

シェルアが通された部屋で、カレンディラは長椅子に座り微笑んでいた。いつも通りの『カレンディラ』の姿で。

「シェルア・ゴルゴアと申します。本日はお招きいただき……」

「堅い挨拶なんていらないわ。どうぞ、お掛けになって」

にこやかに告げるカレンディラだったが、しかしシェルアの顔は固いままだった。それでも言われた通り、カレンディラが座る長椅子の対面に座った。

「ねえ、シェルア様」

カレンディラがすうっと目を細めた。さながら、獲物を定めた肉食獣のようだった。

「わたくし、貴女に伺いたいことがございますの」


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