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悪役令嬢はお人好し  作者: 悠雨
第2章
10/18

悪役の苦心

本日2話投稿です


王城へ到着したカレンディラは、早速ふけたジークセイドを探していた。実の妹やカレンディラの弟のカルロに呼ばれているとおり、ジークセイドは馬鹿であるとカレンディラもよく知っている。勉強は出来るのに、ちっとも賢くない。毎度毎度ふける場所が一緒なため、探す手間がなくすぐに見つけられる。探すのに手間取れれば、なるべく長く二人の時間を作ってあげられるのに。一度、「見つけるのが早すぎる」とジークセイドに不機嫌そうに言われた。ならもっと場所を考えてとカレンディラも返したが、ジークセイドは一向に変えない。その場所をルルーシュが気に入っているとのことらしい。

今日も今日とて、例の場所にいるのをカレンディラは早々に見つけた。すでに二人の世界が展開していた。

どうにかしようと悩んだすえ、カレンディラが出したのは、

「ちょっと。そこのあなた」

文官だろうか。書類を抱えた男にカレンディラは声をかけた。声をかけられた男は、カレンディラを認めると微かに顔をしかめた。

「ご機嫌麗しゅう、ユシュアン公爵令嬢」

「ご機嫌よう。わたくし、王太子殿下を探しておりますの。ご存知?」

「……さきほど、中庭の東屋に」

「そう。ありがとう」

書類を抱えた男が立ち去った。カレンディラは言われた通り、中庭の東屋に向かった。ちなみに。ジークセイドがいるのは中庭ではあるが、東屋とは反対である。

適当な誰かに所在を尋ねる。そうすると皆、だいたい嘘を教えてくれた。なんて言ったってカレンディラは評判がすこぶる悪い。移動したのだ、と言えばいいとでも思っているのだろう。しかしその嘘のおかげで時間が稼げて助かっている。けれど、尋ねたさい相手の顔が歪むのは、いつまで経っても慣れなかった。

東屋には、やはり誰もいなくて。カレンディラは一人座った。本来なら、侍女を連れ歩くべきだが、王太子を探すのはいつも一人だ。

ふう、とため息をついたとき、ふいに影がかかった。カレンディラが驚いて顔を上げると、柔和な笑顔がカレンディラを見下ろしていた。

「……驚かさないでくださいな、ショーティ殿」

「それは失礼。お疲れですね、カレン様」

「訓練はどうされたのですか?」

「ちょうど休憩中なんですよ。自主的なね」

ショーティの言葉に、カレンディラは笑った。ダメじゃないですか、という言葉に、ショーティはさらに笑みを深めた。

「貴女はそうして笑っている時が一番美しい」

「ありがとうございます」

「本気で言っているのに」

肩をすくめたショーティに、カレンディラはまた笑った。

ショーティ・リュグロ。優しげな顔立ちに柔らかい物腰を持つ、騎士。カレンディラは彼とナツキに絡むようになってから出会った。彼には何故か『悪役』が通じず、「どのような事情があるかは存じませんが」と痛々しそうな顔で言われたのがカレンディラには衝撃だった。

「今日は殿下ですか?」

「ええ。いつもの所で密会中でして」

「貴女は何故ここに?」

「ちょっと休憩に」

「では。ご一緒してもよろしいでしょうか?」

「よくってよ」

カレンディラはニコッと笑った。悪役令嬢らしくない、可愛らしい笑み。

そういう顔を見ていると、ショーティはカレンディラが日々無理しているのだとよく分かった。事情はさっぱり知らないが、彼女が嫌われることをする理由に胸を痛めていた。

王太子も同僚ナツキも、いっぺん死ねばいいのにな。ぶっちゃけショーティはそう思ってる。そしたら、自分がカレンディラの側に居座れるのにと。正直、彼女を選ばない理由が理解できなかった。きっと王太子の目は腐ってるんだと思う。まあライバルが少ないにこしたことはないのだが。

ショーティの家は伯爵家。低くはないが、公爵家とは釣り合いが取れない。それになにより、カレンディラの弟のカルロにバレたときが非常に面倒だ。かろうじてまだ大丈夫だが、同僚が理由もなく減給と公休がなしになったのが誰のせいか、ショーティは察していた。

隣で笑うカレンディラが、ふいに立ち上がる。

「そろそろ、いきますね。ありがとうございました、ショーティ殿」

「こちらこそ、有意義な時間をありがとうございました。ではまた、カレン様」

立ち去ったカレンディラが、これから向かう先を考えて、ショーティは少しだけ不愉快になった。


カレンディラはそのあと、ジークセイドとルルーシュを引き剥がした。そしてジークセイドと二人になった時、切り出した。

「殿下」

「なんだ」

ジークセイドはニコニコというか、顔を幸せそうにゆるゆるにしたまま、上機嫌で応えた。さきほどの余韻に浸っているらしい。

「わたくし、いつまでルルーシュ様をいじめればよろしいの?」

「んー……もうちょい」

「左様ですか」

「もうちょい頼むな」

カレンディラの胸に、不安が大きくなった。

案の定、もうちょいは全然終わらなかった。






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