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ダンジョンがリゾート施設に!? 天然温泉に魔物も人間も大行列

「……というわけで。地下室を掘っていたら、この子が釣れました」


リビングのソファにちょこんと座る銀髪の幼女、ココアを指し示し、俺は家族全員に説明した。


「釣れました、じゃありませんわアレンさん! ダンジョンマスターですよ!? 人類の敵ですよ!?」


シャルロットが珍しく慌てている。 だが、当のココアは、シャルロットが出した「特製カスタードプリン」を一口食べて、頬を落としていた。


「んふぅ……っ! なんじゃこれは、甘露か!? 魔界の果実より美味いぞ!」 「……まあ。お口に合ったようで」 「うむ! 妾はここに住む! ダンジョンの管理など知らん! プリンを寄越せ!」


あっさり陥落していた。 ミアは「あたしのプリン取らないでよ!」と威嚇し、エルザは「ダンジョン産の鉱石が手に入るなら文句はない」と酒を飲んでいる。 どうやら、受け入れ態勢は整ったようだ。


「で、だ。ココアの部屋コアルームがある地下エリアなんだが……正直、広すぎて持て余してるんだ」


俺はココアに向き直った。


「ココア、ダンジョンの構造って変えられるか?」 「造作もないことじゃ。妾の魔力と、そちの【建築】があれば、どんな形にも作り変えられるぞ」 「よし。なら、あそこを『有効活用』しよう」


俺の頭の中には、日本にいた頃からの夢の設計図があった。 スローライフには欠かせない、あの施設だ。



俺たちは地下ダンジョンへと降りた。 元は陰鬱な石造りの迷宮だったが、ココアの権限でモンスター(スケルトンやゴレーム)たちは整列して待機している。


「まずは水源の確保だ。……スキャン」


俺は地面に手を当て、地脈を探る。 あった。地下深くに眠る、熱を帯びた水脈が。


「ここだ! 掘削開始!」


「【超建築:大深度掘削ボーリング】」


ドガガガガッ!!


地面が穿たれ、数秒後。 プシューッ!! と真っ白な湯気が吹き上がった。 硫黄の香りが微かに漂う、極上の源泉だ。


「よし、湯量は十分。あとは建物だ」


俺は両手を広げ、イメージを具現化する。 殺風景な洞窟を、風情ある岩風呂や、ヒノキの香りが漂う内湯、そしてサウナと水風呂へ。


「【超建築:地下天然温泉『極楽の湯』】!」


ゴゴゴゴゴ……!


薄暗いダンジョンが、和風モダンな温泉テーマパークへと変貌した。 天井には【擬似空スカイ・シーリング】を設置し、青空と雲が流れているように見せる。 壁には竹林を配置し、床は清潔な脱衣所へと変わった。


「な、なんじゃここは……!? 本当に地下か!?」 「すごい……! 王都の貴族専用スパより豪華ですわ!」


ココアとシャルロットが目を輝かせる。


「それだけじゃないぞ。……おい、お前たち」


俺は整列していたスケルトンたちに声をかけた。 彼らは俺の指示に従い、あらかじめ用意しておいた制服(法被)を着込み、手に桶やタオルを持った。


「今日からお前たちはモンスターじゃない。『従業員』だ。背中の垢すり、マッサージ、ドリンクの提供……しっかり働けよ」


『カタカタ(了解シマシタ、オーナー)』


スケルトンたちが敬礼する。 ゴレームは「岩盤浴の熱源」兼「警備員」として配置についた。


「ま、魔物が働いている……!? 妾の配下たちが、こんな生き生きと……!」 「さあ、一番風呂といこうか」



「はぁぁぁぁ……生き返りますわぁ……」


女湯(広大な岩風呂)。 シャルロットは肩までお湯に浸かり、うっとりと空(擬似空)を見上げた。 隣ではミアが犬かきならぬ猫かきで泳ぎ、エルザは湯船酒を楽しんでいる。ココアはアヒルのおもちゃを浮かべてはしゃいでいた。


「アレンさんの作るお風呂は格別ですけど、この広い温泉はまた違った良さがありますわね」 「うむ。この湯、魔力が溶け込んでおる。浸かっているだけで魔力回路が強化されるぞ」


ココアが専門的な解説をする。 そう、この温泉には【疲労回復・極】【魔力増強】【美肌効果】【運気上昇】のバフが付与されている。 まさに浸かるだけで強くなる「経験値風呂」だ。


男湯で一人、足を伸ばしていた俺は、壁越しに聞こえる彼女たちの楽しそうな声を聞きながら、ふと思いついた。


(これ、一般開放したら大儲けできるんじゃないか?)


ダンジョンの入り口は荒野にあるが、転移陣を使えば集客は可能だ。 「世界一危険なダンジョン」ではなく、「世界一癒されるダンジョン」として売り出せば……。



数日後。


「おい、聞いたか? 『果ての荒野』に、入るだけで天国に行けるダンジョンがあるらしいぞ」 「馬鹿言え。あそこはSランク魔物の巣窟だぞ」 「いや本当だ! 入り口でスケルトンが冷たい牛乳を配ってるんだって!」


そんな噂が、冒険者の間でまことしやかに囁かれ始めていた。


そして、その噂を聞きつけた第一号の客――ボロボロになった冒険者パーティが、恐る恐るダンジョンの入り口(暖簾がかかっている)をくぐろうとしていた。


「い、いらっしゃいませー。カッカッカ(骨の音)」


「ひぃぃっ!? スケルトン!? ……え、いらっしゃいませ?」


彼らが極楽の湯に浸かり、人生観を変えて帰っていくまで、あと一時間。 アレンの村は、いよいよ観光地としての第一歩を踏み出そうとしていた。

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