ドワーフの幼女がやってきた。ミスリルの包丁と、最強装備の爆誕
元暗殺者の猫耳少女、ミアが家族に加わってから数日。 我が家の食卓事情は劇的に向上――というか、ワイルドになっていた。
「アレン、獲ってきたぞ! 今日は『鉄甲亀』だ!」
ドサァッ!! 裏庭に巨大な亀のような魔物が投げ出された。 甲羅が鋼鉄よりも硬いとされる、Aランク相当の魔物だ。
「おう、ご苦労さん。……って、これどうやって捌くんだよ? ウチの包丁じゃ刃が立たないぞ」 「む……確かに。私の短剣でも傷一つつけられんかった」
ミアは俺の作った家で暮らすうちに、バフ効果で身体能力が底上げされ、以前なら苦戦した魔物も瞬殺できるようになっていた。 食料調達係としては優秀すぎるのだが、獲物が頑丈すぎて調理できないのが最近の悩みだ。
その時だった。
『――警告。外壁に物理的な衝撃を検知。敵対行動の可能性あり』
またか。最近、この辺りは少し賑やかだな。 俺とミアが外に出ると、家の外壁(ミスリル合金含有の石材)にへばりついている「小さな影」があった。
ガリッ、ゴリッ、ガリッ。
「……何してるんだ?」 「んあ?」
声をかけると、影が振り返った。 身長はシャルロットの腰ほどしかない。幼い少女に見えるが、その筋肉は妙に引き締まっている。 そして手には巨大なハンマーを持っていた。 ドワーフだ。
彼女は目を血走らせて、俺の作った外壁を指差した。
「おい若造! この壁はなんだ!? 純度99%のミスリルとオリハルコンが混ざっておるじゃろ!? こんな国宝級の素材を野ざらしにするなんぞ、頭がおかしいのか!?」 「ええ……ただの防犯用の壁だけど……」 「壁じゃとぉ!? ワシが一生かけて探していた伝説の鉱石が、壁!?」
少女は泡を吹いて倒れそうになった。 どうやら、俺が【超建築】で生成した素材の品質が、この世界の常識をぶっちぎっていたらしい。
「ワシはエルザ。世界一の鍛冶師を目指して旅をしているドワーフじゃ。頼む、この素材を少し譲ってくれ! これさえあれば、神の武具が打てるんじゃ!」
エルザと名乗ったドワーフの少女は、地面に頭を擦り付けんばかりに懇願してきた。
俺は少し考えて、ニヤリと笑った。 ちょうど「硬い素材」を加工できる人材が欲しかったところだ。
「いいぞ。その代わり条件がある」 「なんじゃ!? 金か? 魂か?」 「俺たちの専属鍛冶師になってくれ。工房は俺が用意する」 「……へ?」
◇
「【超建築:ドワーフの鍛冶工房】!」
俺がスキルを発動すると、ログハウスの隣に、レンガ造りの立派な工房が出現した。 中には、魔力で温度管理された「無限炉」や、自動で形状を整える「魔法の金床」が完備されている。
「な、なんじゃこの設備はぁぁぁっ!! 炉の温度が思考だけで変わるじゃと!? これならどんな金属もバターのように溶けるわい!」
エルザは大興奮で工房の中を走り回った。
「この工房には『作業効率500%アップ』と『品質超向上』のバフがかかってる。思う存分やっていいぞ」 「お主、本当に人間か……? まあいい! これならワシの腕が鳴るわい!」
エルザは早速、俺が提供した建材の余り(ミスリルインゴット)を使って、カンカンと槌を振るい始めた。 その手際は、まさに職人芸。
数時間後。
「できたぞい。まずは手始めに、奥方様からのリクエストじゃ」
エルザが得意げに差し出したのは、一本の包丁だった。 刀身が青白く輝き、見るからに切れ味鋭そうな逸品だ。
「わあ、ありがとうございます! これでやっとお料理が捗りますわ!」
シャルロットが嬉しそうに包丁を受け取り、早速キッチンへ。 まな板の上に、先ほどの『鉄甲亀』の肉(甲羅付き)を置く。
「えいっ」
トン。
軽い音がした。 次の瞬間、鋼鉄よりも硬いはずの甲羅と肉が、まるで豆腐のように両断された。 ――いや、それだけではない。 その下にあった分厚い木のまな板と、さらにその下の頑丈なテーブルまで真っ二つになっていた。
「「「あ」」」
全員の時が止まった。
「……あ、あら? 力を入れていないのに……」 「おいエルザ! 切れ味良すぎだろ!? テーブルまで切ってどうする!」 「知らんわい! この工房のせいで、ただの包丁のつもりが『聖剣エクスカリバー』級の業物になってしまったんじゃ!」
エルザが頭を抱える。 どうやら、俺の建築バフとドワーフの技術が合わさると、とんでもないオーバースペック装備が量産されてしまうらしい。
「ふふっ、すごい切れ味……。これなら、アレンさんに近づく悪い虫も『一刀両断』できますわね……?」 「シャルロットさん? 目が笑ってないよ?」
こうして、我が家に「生産職」が加わった。 この日以降、ミアの装備は「ドラゴンすら一撃で屠る短剣」になり、シャルロットのエプロンは「伝説級の魔法防御力を持つ布」になるのだが、それはまた別の話だ。
俺たちの村(まだ一軒家だが)の戦力は、着実に国家レベルを超えつつあった。




