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猫耳少女は殺し屋? セキュリティシステム発動と、新たなる同居人

快適なログハウスでの生活が始まってから、数日が過ぎた。 俺とシャルロットの共同生活は、驚くほど順調だった。


「アレンさん! 見てください、トマトがもう赤くなってます!」 「お、早いな。さすが【豊穣の菜園】だ」


庭に作った家庭菜園では、俺が付与した【成長促進】と【品質改良】のバフのおかげで、植えたばかりの野菜が爆発的なスピードで育っていた。 シャルロットは泥で汚れるのも厭わず、楽しそうに収穫作業をしている。元公爵令嬢とは思えない働きぶりだ。


そんな平和な昼下がりのことだった。


『――警告。敷地内への不正侵入者を感知しました』


リビングに設置した、魔石駆動のホームセキュリティ音声が鳴り響いた。


「えっ? 侵入者……?」 「シャルロットは家の中に入っててくれ。俺が見てくる」


俺は庭作業の手を止め、モニター代わりの水晶板を確認する。 映っていたのは、目にも止まらぬ速さで荒野を駆け抜け、この家に向かってくる黒い影だった。


(速いな……。魔物か? いや、人型だ)


影はそのまま、俺が作った外壁を飛び越えようと跳躍した。


「甘いな」


俺は指をパチンと鳴らす。 俺の作った家は、ただ快適なだけじゃない。ここは俺の城であり、要塞だ。


「防衛システム起動。【自動捕縛オート・バインド】」


ガシャンッ!!


外壁の一部がスライドし、そこから無数の鎖が蛇のように飛び出した。 空中にいた影は避けることもできず、手足を絡め取られ、地面に叩きつけられることなく空中で宙吊りにされた。


「にゃっ!? な、何だこれはっ!?」


聞こえてきたのは、可愛らしい悲鳴だった。 俺とシャルロットが現場に向かうと、そこには黒ずくめの服を着た小柄な少女がぶら下がっていた。 フードが外れ、頭頂部には三角形の耳――猫耳がピコピコと動いている。


「獣人……?」 「うぅ……放せ! この卑怯者!」


少女は鋭い眼光で俺を睨みつけた。その手には毒が塗られた短剣が握られている。


「シャルロット・フォン・ベルンシュタインだな? 王家からの刺客だ。貴様の首をもらいに来た!」 「えっ、私の……?」


シャルロットが青ざめる。 どうやら、あの王太子かその取り巻きが、追放だけでは飽き足らず口封じに刺客を送ったらしい。どこまでも腐ってやがる。


「殺せ! 任務に失敗した暗殺者に生きる価値はない!」


少女は覚悟を決めたように目を閉じた。 だが、その時。


ぐぅぅ~~~~~~……。


盛大な腹の虫が鳴り響いた。 一瞬の静寂。


「……あ」


少女の顔が真っ赤に染まる。 猫耳がぺたん、と力なく倒れた。


「……腹、減ってるのか?」 「う、うるさい! 三日間何も食べてないだけだ! 最後の晩餐くらいよこせ!」 「ふっ。……シャルロット、どうする?」


俺が尋ねると、シャルロットは怯えるどころか、クスクスと笑った。 そして、少女に近づいて優しく微笑んだ。


「アレンさん、降ろしてあげてください。こんなにお腹を空かせた子に、悪い人はいませんわ」 「お前なぁ……殺されかけたんだぞ?」 「でも、アレンさんのセキュリティがある限り、誰も私たちを傷つけられないでしょう?」


全幅の信頼だ。俺はため息をつきつつ、鎖を解いた。



「ふあふふ! んぐっ、んむっ! うめぇぇぇ!!」


ログハウスのリビング。 猫耳少女――自称・裏社会の暗殺者ミアは、テーブルに出された「特製ハンバーグプレート」を猛烈な勢いで平らげていた。


「な、なんだこの肉は!? 口の中でとろけるぞ!? それにこのソース、王族だってこんな美味いもん食ってねぇぞ!?」 「そりゃあ、【熟成保存】された最高級肉を、【自動調理】で完璧な火加減で焼いてるからな」


ミアは涙目になりながら、尻尾をブンブンと振っている。口では悪態をついているが、身体は正直だ。


「おかわり、ありますわよ」 「食う!!」


シャルロットが差し出した二皿目も瞬殺。 満腹になったミアは、呆然と天井を見上げた。


「……あたし、今まで残飯みたいな飯しか食ってこなかった……。こんな幸せな世界があったなんて……」


彼女は奴隷同然の扱いで暗殺ギルドに育てられたらしい。 俺は食後のコーヒーを飲みながら提案した。


「なあ、ミア。お前、帰ったら処刑されるんだろ?」 「……ああ。失敗したゴミは処分される」 「なら、ここで働かないか?」 「は?」


俺は家の壁を指差した。


「俺たちの生活は快適だが、外敵への警戒手が足りない。お前のような鼻が利く奴がいると助かるんだ。報酬は、毎日このレベルの飯と、ふかふかのベッド。あと毎日風呂に入れるぞ」


「……風呂? あの、貴族しか入れないっていう?」 「ウチじゃ標準装備だ」


ミアの猫耳がピクリと反応し、喉がゴクリと鳴った。 彼女は俺と、ニコニコしているシャルロットを交互に見て……ガバッと土下座した。


「お願いします! 番犬でも番猫でも何でもやります! だからここに置いてください! もうあの組織には戻りたくねぇ!」 「よし、交渉成立だな」 「あらあら、新しい家族が増えましたわね」


こうして、我が家に最強のセキュリティ(物理)が追加された。 ちなみに、その後風呂に入ったミアが「毛並みがサラサラになった!」と歓喜して、裸のままリビングに飛び出してきて俺がシャルロットに目を塞がれたのは、また別の話だ。

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