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朝起きたら肌がツルツルに!? 建築バフの恩恵と、メイド志願の公爵令嬢

小鳥のさえずりと、カーテンの隙間から差し込む柔らかな陽光。 シャルロットは、雲の上で寝ているような浮遊感の中で目を覚ました。


「ん……ふわぁ……」


無意識に伸びをして、ハッと目を見開く。 (私、生きてる……? ここは……?)


昨夜の記憶が蘇る。追放、狼、アレンという不思議な建築士、そして夢のようなログハウス。 恐る恐る体を起こし、自分が寝ていたものを見る。 それは最高級の羽毛布団よりも軽く、王族専用のマットレスよりも弾力のあるベッドだった。


「体が……軽い」


信じられなかった。 数日間の過酷な逃亡生活で、体は鉛のように重く、足は豆だらけでボロボロだったはずだ。 それなのに、今の彼女の体には、痛みどころか倦怠感の一つも残っていなかった。


ふと、枕元に置いてあった姿見ドレッサーが目に入る。 そこに映っていた自分の顔を見て、シャルロットは悲鳴を上げそうになった。


「うそ……これ、私?」


荒れてガサガサだったはずの肌は、生まれたての赤子のようにきめ細かく、内側から発光するようにツヤツヤとしていた。 ボサボサだった髪は天使の輪ができるほど潤い、目の下のクマも完全に消え失せている。 魔力に至っては、全盛期以上に満ち溢れていた。


「おはよ。随分と顔色がいいな」


ドアがノックされ、アレンが顔を覗かせた。 彼は爽やかな笑顔で、湯気の立つマグカップを手にしている。


「アレンさん! こ、これはいったいどういうことですか!? 私、一晩寝ただけなのに、エステに一ヶ月通ったみたいになってますわ!」


シャルロットが頬をペタペタと触りながら詰め寄ると、アレンは「ああ」と事も無げに言った。


「言っただろ? 俺の建物にはバフがかかるって。この寝室には特に『超回復』と『美容促進』の効果を付与しておいたんだ。女の子だし、肌荒れとか気にするかなと思って」


「び、美容促進……!? そんな効果、国宝級の魔導具でも不可能ですわよ!?」


「まあ、俺のオリジナルだからな。気に入ってくれたなら良かった」


アレンは照れくさそうに笑う。 シャルロットは胸が震えた。 (この人は、どれだけ私に与えてくれるの……?) 命を救い、居場所を与え、そして女性としての尊厳まで取り戻してくれた。 もう、迷いはなかった。


「アレンさん。……キッチンをお借りしてもよろしいですか?」



「う、うまい……!」


リビングのテーブルで、アレンは目を丸くしていた。 目の前には、フワフワのオムレツと、彩り豊かな野菜スープ。そして焼きたてのパン。 シャルロットが、備蓄庫にあったあり合わせの食材で作った朝食だ。


「本当ですか!? お口に合いますか?」 「ああ、最高だ。勇者パーティじゃ干し肉とか硬いパンばかりだったからな……こんな温かい家庭料理、久しぶりに食べたよ」


アレンがガツガツと食べる姿を見て、シャルロットはエプロン姿で嬉しそうに微笑んだ。 その笑顔は、昨夜の悲壮感漂う令嬢とは別人のように明るい。


「私、決めました。アレンさん、私をこの家の『管理人』にしてください」 「管理人?」 「はい。アレンさんは建築でお忙しいでしょうから、お掃除、お洗濯、お料理……家事の一切は私が引き受けます! 元公爵令嬢として、家政ハウスキーピングと経理は得意分野ですので!」


彼女は胸を張って宣言する。


「貴方が作ってくれたこの素晴らしい家を、私が世界一居心地の良い場所にしてみせます。だから……ずっと、お傍に置いていただけますか?」


アレンは少し驚いた顔をした後、穏やかに頷いた。


「もちろん。俺の方こそ頼むよ。……一人じゃ広い家を持て余してたところだ」 「はいっ! 旦那様!」 「だから旦那様はやめろって」


二人の笑い声が、柔らかな朝の光の中に溶けていった。



一方その頃。 アレンたちを追放した場所から数十キロ離れた荒野で、勇者パーティは最悪の朝を迎えていた。


「くそっ……身体中が痛い……」


勇者アルヴィンは、ゴツゴツした岩の上で寝たせいでバキバキになった腰をさすりながら起き上がった。 安物のテントは昨夜の強風で吹き飛び、全員が砂まみれだ。


「おい、朝飯はまだか!」 「文句言わないでよ! 火が点かないのよ!」


魔法使いの女がヒステリックに叫ぶ。いつもならアレンが風除けのかまどを一瞬で作ってくれていたが、今は強風の中で枯れ木に火を点けるだけでも一苦労だった。


「……ねえ、私の聖杖、どこに置いたかしら?」 「知らん。その辺に立てかけてあっただろ」 「ないのよ! 錆びて折れてるわ!」


聖女が悲鳴を上げる。 アレンの作った「武器庫」には、湿気取りと劣化防止の機能があったが、野ざらしにすれば当然道具は痛む。


「チッ、どいつもこいつも役立たずだな! ……アレンがいれば、今頃は……」


勇者はつい口をついて出た言葉を、慌てて飲み込んだ。 認めるわけにはいかない。あんな地味な建築士ごときに、自分たちの生活が支えられていたなんて。


そして、さらに遠く離れた王都の王城でも――。


「殿下! こちらの決裁書類が未処理です!」 「隣国との貿易協定の資料が見当たりません! 今日中に返答しないと国益に関わります!」


王太子の執務室は、書類の山で埋もれていた。 これまではシャルロットが影ながら完璧に整理し、下書きを済ませていた業務だ。 彼女を「生意気だ」と追い出した王太子は、今になって冷や汗を流していた。


「ええい、うるさい! シャルロットはどうした! あいつを呼んでこい!」 「ですから、殿下が昨日、国外追放になさったではありませんか……」 「な、なんだとぉ……!?」

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