空の上の結婚式!? 「僕たち、そろそろ……」
邪神騒動(所要時間15分)が片付き、天空遊園地は再び平和と賑わいを取り戻していた。 イグニスにはお詫びとして「クレープ1年分無料券」が渡され、彼女は機嫌を直してジェットコースターの列に並び直している。
夕暮れ時。 茜色に染まる雲海をバックに、アレンとシャルロットは遊園地の一角にある展望台に立っていた。
「……綺麗な夕日ですわね」 「ああ。地上で見るのとはまた違うな」
二人の間を、心地よい風が吹き抜ける。 眼下にはアレン公国の街並みが、そして遠くには世界中から集まった人々が笑い合う姿が見える。
かつて、二人は全てを失った「追放者」だった。 けれど今は、こんなにも多くのものを手に入れ、守っている。
アレンは、ポケットの中にある小さな箱を握りしめた。 素材はミスリルとオリハルコンの合金。中に入っているのは、彼が密かにエルザの工房を借りて作った、世界に一つだけの指輪だ。
「……シャルロット」 「はい?」
シャルロットが振り返る。 夕日を受けて輝く金色の髪。アレンを見つめる青い瞳。 彼女の献身的な支えがなければ、アレンはここまで来られなかっただろう。
アレンは片膝をつき、箱を開けた。
「俺の『永久就職先』になってくれないか?」
ベタな台詞だったかもしれない。 だが、シャルロットの目からは、大粒の涙が溢れ出した。
「……はいっ! ……はいっ、喜んで……!」
彼女はアレンに飛びついた。 二人のシルエットが重なり、周囲から祝福の拍手が湧き起こる。
いつの間にか集まっていた仲間たち―― 「ヒューッ! やるじゃねぇか主!」と口笛を吹くミア。 「やっとか。じれったかったぞい」と酒瓶を掲げるエルザ。 「めでたいのう! 宴じゃ宴じゃ!」とはしゃぐココア。 「おめでとうございますぅぅ!」と泣き崩れるリナとエリス。 そして、コンクリートの中から「くそぉぉリア充めぇぇ」と悔しがるアルヴィン(邪神)。
世界中が祝福する中、アレンとシャルロットは誓いのキスを交わした。
こうして、天空の楽園での物語は、最高のハッピーエンドで幕を閉じる――
はずだった。
ピロン♪
アレンのスマホに、一通の通知が届いた。 差出人は『管理者(Administrator)』。
【通知:世界のバグ(邪神)が修正されました。これより、新エリア『宇宙』を開放します】
「……は?」
アレンとシャルロットは空を見上げた。 茜色の空が裂け、その向こうに無限の星空と――巨大な宇宙船のシルエットが見えた。
「アレンさん……あれは?」 「……どうやら、スローライフの舞台は、星の海へ広がるみたいだ」
建築士アレンの休まる日は、まだまだ来そうにない。




