ドラゴン姫、こたつで丸くなる。「地上の暖房器具……恐るべし」
「くっ……殺せ! 竜族の誇りにかけて、人間ごときに餌付けなどされん!」
アレンの屋敷(天空支部)のリビングにて。 ソファに縛られた(実際は座らされているだけ)イグニスは、そっぽを向いて抵抗していた。
「まあまあ、そう言わずに。空の上は寒かったでしょう?」 シャルロットが優しく微笑み、テーブルの上に「あるもの」を設置した。
布団がついた低いテーブル。 日本の冬の風物詩、【こたつ】である。
「な、なんだその貧相な机は。そんなもので我を懐柔できると……」 「入ってみれば分かりますよ」
アレンに促され、イグニスは警戒しながら足をこたつの中に入れた。
「……ん?」
カッ。 魔法ヒーターの熱源が、冷え切った彼女の足先を包み込む。 竜族は変温動物に近い性質を持つ。つまり、寒さに弱く、温かい場所が大好きなのだ。
「……っ!?」
イグニスの身体に電流が走った。 温かい。いや、ただ温かいだけではない。 まるで春の陽だまりの中にいるような、抗いがたい魔性の温もり。
「あ、あったかい……」 「みかんもありますよ」
シャルロットが皮をむいたみかんを差し出す。 イグニスは無意識にそれをパクリと食べた。 こたつの熱と、甘酸っぱい果汁のハーモニー。
「~~~~~~ッッ!!」
イグニスの瞳から、敵意の光が消滅した。 彼女はズズズ……とこたつの中に沈んでいき、最終的には首だけ出して丸まった。
「……ここ、私の巣にする」 「はい、陥落」
アレンとシャルロットはハイタッチした。 チョロい。あまりにもチョロすぎる。
「で、イグニスさん。飛行ルートの話なんですが」 アレンが切り出すと、イグニスはこたつから出ないまま、夢見心地で答えた。
「んぅ……許可する……。好きにしていい……。その代わり、この『コタツ』という神器を我に献上せよ……」 「献上というか、ここに住めば使い放題ですよ」 「住む!!」
即答だった。 こうして、空の支配者である竜人族もまた、アレン公国の住人(居候)となった。
「アレンさん、また女の子が増えましたわね……」 「ま、まあ、戦力としては最強クラスだから……」
シャルロットの視線が少し痛いが、これで空の安全も確保された。 だが、平和な天空とは対照的に、地上では不穏な動きが進行していた。




