空の支配者、ドラゴン娘が激突! 「ここ、私の飛行ルートなんですけど?」
高度3000メートル。 アレンが作り出した『天空の島』は、雲海の上に優雅に浮かんでいた。
「空気が美味しいですわーっ!」 「雲が綿あめみたいじゃ!」
シャルロットとココアが、島の縁(転落防止の結界付き)から身を乗り出してはしゃいでいる。 アレンはデッキチェアに寝そべり、眼下に広がる世界を見下ろしていた。
「最高だな。ここなら騒音もないし、誰にも邪魔されな――」
ヒュオオオオオッ!!
突然、暴風が吹き荒れた。 ただの風ではない。巨大な翼が羽ばたいたことによる衝撃波だ。
「何事だ!?」 「アレンさん、上です!」
見上げると、太陽を遮るように巨大な「紅い竜」がホバリングしていた。 全身がルビーのような鱗に覆われ、金色の瞳が鋭くこちらを睨んでいる。 伝説の最強種族、竜人族の真の姿だ。
『――地上の猿どもよ。誰の許可を得て、我が空域に岩を浮かべている?』
脳内に直接響く念話。 そして、竜の身体が光に包まれ、収縮していく。 光が晴れると、そこには一人の少女が浮いていた。
燃えるような真紅の髪、頭には二本の角。背中には竜の翼。 露出度の高いレザーの鎧を纏った、気の強そうな美少女だ。
「我は竜人族の姫、イグニス! この空は代々、我ら竜族の飛行ルート(縄張り)だ! 直ちにこの邪魔な岩を撤去せよ!」
イグニスは腕を組み、高圧的に言い放った。 空の不動産トラブル発生である。
「撤去って言われてもなぁ。せっかく作ったし」 アレンが困ったように頭をかくと、イグニスはカッとなって眉を吊り上げた。
「口答えするな! 我ら竜族のブレスは鉄をも溶かすぞ! ……ええい、話を聞かんか!」
彼女が手のひらをかざすと、膨大な魔力が収束し始めた。 本気の攻撃魔法だ。
「危ないですわアレンさん!」 「ふむ……仕方ない」
アレンは立ち上がり、パチンと指を鳴らした。
「【超建築:対竜迎撃システム・起動】」
「無駄だ! 竜の鱗は魔法を弾く!」 イグニスが火球を放とうとした、その瞬間。
シュゴオオオオオッ!!
島のあちこちに設置された噴射口から、大量の「白い煙」が噴き出した。 毒ガスか? イグニスは警戒して息を止めたが――。
「……む? 甘い匂い?」
それは毒ガスではなく、「アロマミスト(極上のまたたび成分配合)」だった。 竜族は猫に近い性質を持つ(と、アレンの鑑定スキルに出ていた)ため、リラックス効果のあるハーブを濃縮して散布したのだ。
「な、なんだこれは……力が……抜ける……」
イグニスはトロンとした目になり、頬を赤らめた。 空中に浮いているのが維持できなくなり、フラフラと島の方へ降下していく。
「ふにゃぁ……いい匂い……」 「よし、捕獲だ」
アレンが用意した「巨大ビーズクッション(人を駄目にするソファ)」の上に、イグニスはぽすんと着地した。
「くっ、卑怯な……! 我を……どうする気だ……」 「とりあえず、話し合いをしようか。お茶とお菓子もあるぞ」
アレンはニッコリと笑った。 最強の竜姫、着地からわずか3分で無力化完了である。




