従業員慰安旅行へ行こう! 行き先は「海」。水着回と、巨大イカ焼きの宴
アレン公国(極楽温泉郷)の経営は、あまりにも順調すぎた。 国王と魔帝という二大VIPの来店により、大陸中の貴族や富豪が「あそこに行けばコネが作れるかもしれない」と殺到し、予約は三ヶ月待ちとなっていたからだ。
「……みんな、働きすぎだ」
営業終了後のリビング。 アレンは、疲労の色が見えるスタッフたちを見回して言った。 シャルロットは帳簿付けで目が回り、ミアは警備で走り回り、リナとエリスはトイレ掃除のプロとなっていたが、やはり疲れている。
「そこでだ。明日は臨時休業にして、『従業員慰安旅行』に行くぞ!」 「い、慰安旅行……? それは何ですの?」 シャルロットがキョトンとする。 「みんなでパーッと遊んで、美味しいものを食べて英気を養うイベントだ。行き先は――『海』だ!」
「「「海ーーッ!?」」」
全員が叫んだ。 この世界において、海は「クラーケン」や「シーサーペント」が跋扈する人類未踏の危険地帯である。リゾートという概念は存在しない。
「危険ですわアレンさん! 海なんて行ったら、一瞬で魔物の餌食に……」 「大丈夫。俺がいるだろ? それに、海の幸を食べたくないか?」 「シーフード……?」 ミアの猫耳がピクリと動く。ココアもよだれを拭った。
「よし、決定だ。出発は明日朝6時。水着は俺が用意しておくから、各自サイズを申告するように」
◇
翌朝。 アレンたちが乗り込んだのは、馬車ではなかった。
【超建築:水陸両用・大型キャンピングカー『リゾート・ライナー』】
ミスリル合金のボディに、魔導エンジンを搭載した六輪の装甲バスだ。 中は広々としたリビング仕様で、冷蔵庫には冷えたジュースが完備されている。
「す、すごいですわ……。揺れが全くありません……」 「速いぞ! 馬車の十倍は出てる!」
バスは荒野を爆走し、街道を無視して直進。 わずか数時間で、視界いっぱいにコバルトブルーの水平線が広がった。
「うわぁぁぁぁっ! 海だぁぁぁぁっ!」
バスはそのまま砂浜へと突入し、波打ち際で停止した。 誰もいない、手付かずのプライベートビーチだ。
「よし、拠点設営!」
アレンが砂浜に手を付く。
【超建築:海の家『パラダイス・ビーチ』】
ズズズズン! 一瞬にして、シャワー完備の更衣室、冷たいドリンクを提供するカウンター、そして日除けのパラソルとサマーベッドが立ち並んだ。 さらに、沖合には【対・海獣用防衛ネット】も展開済みだ。
「さあ、着替えてこい!」
◇
数分後。 更衣室から出てきた女性陣の姿に、アレン(とスケルトンたち)は親指を立てた。
「ど、どうでしょうか……アレンさん……」
シャルロットは、清楚な白のワンピースタイプの水着。しかし、濡れると透けそうな素材と、強調されたプロポーションが破壊力抜群だ。恥じらう姿がさらに良い。
「似合ってるよ、シャルロット。女神かと思った」 「も、もう! からかわないでください!」
「主様ー! 見て見てー!」 ミアは露出度の高いトラ柄のビキニ。健康的な褐色の肌が眩しい。 「主、ワシのスクール水着はどうじゃ?」 エルザはなぜか前世の知識(アレン由来)で作られた紺色のスク水。ドワーフの幼女体型には妙にマッチしている。 「妾はフリフリじゃ!」 ココアはピンクのフリルがついた愛らしい水着で、浮き輪を持っている。
そして、リナとエリスは……。 「なんで私たちの水着だけ、布面積が少ないんですかぁ!?」 「これじゃあ下着と変わりませんわよ!?」 「いや、君らは『お色気担当』かなと思って」 アレンの采配は完璧だった。
「ひゃっほーい!」 ミアとココアが海に飛び込む。 シャルロットも恐る恐る足をつけると、「冷たくて気持ちいいです……!」と笑顔弾けた。
スイカ割りならぬ「ココナッツ割り(ミスリルの棒を使用)」や、ビーチバレー(魔法禁止)で遊び倒し、一行は海を満喫した。
しかし、その平和な海に、巨大な影が忍び寄っていた。
ザパァァァァァッ!!
「ギャオオオオオオッ!!」
海面が割れ、現れたのは体長50メートルを超える巨大なイカ――Sランク魔物『クラーケン』だった。 十本の触手が、楽しげなビーチを蹂躙しようと迫る。
「きゃぁぁぁっ!? 出たぁぁぁっ!」 「やっぱり魔物がいましたわーッ!」
リナとエリスが抱き合って震える。 だが、アレンはサングラスをずらし、ニヤリと笑った。
「待っていたぞ。……メインディッシュ」
アレンは指を鳴らした。
「エルザ、ミア! 『調理』開始だ!」 「おうよ! 刺し身にするか!?」 「ワシのハンマーで柔らかくしてやるわい!」
強化バフのかかった二人が飛び出す。 ミアが超高速で触手を切り刻み、エルザがハンマーで本体を殴打して海面から叩き出す。
「トドメだ。……【超建築:特大鉄板&バーナー】!」
アレンが浜辺に出現させたのは、クラーケンを丸ごと焼けるサイズの鉄板だった。 空中に打ち上げられたクラーケンは、そのまま熱々の鉄板の上へダイブ。
ジュワァァァァァァァッ!!
「醤油だ! シャルロット!」 「は、はいっ!」
シャルロットが樽に入った醤油と酒を一気にかける。 香ばしい匂いが爆発的に広がり、クラーケンは断末魔を上げる間もなく、美味しそうな「イカ焼き」へと変わった。
「さあ、食うぞー!」 「「「いただきまーす!!」」」
Sランク魔物の肉は、アレンの調理バフによって「極上のプリプリ食感」と「魔力回復効果」を持つ絶品となっていた。 スタッフ一同、恐怖も忘れて巨大イカにかぶりついた。
「おいしぃぃぃぃ!」 「ビール! アレン、ビール持ってこい!」 「これも仕事のうち……ですわよね?」
夕日が沈む水平線を眺めながら、アレンたちは満腹の腹をさすった。 従業員の結束は高まり、明日からの営業に向けた英気は十分に養われたのだった。
「……あ、お土産にゲソ焼き持って帰ろう。レギス陛下が好きそうだ」
アレンの公国は、今日も平和(?)である。




