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独立国家『アレン・ランド』建国宣言!? 隣国の姫まで押し掛けてきた

第14話:独立国家『アレン・ランド』建国宣言!? 隣国の姫まで押し掛けてきた

「おいリナ! そっちの雑草、抜き残しがあるわよ!」 「分かってるわよエリス! ああもう、なんで聖女の私が肥溜めを運ばなきゃいけないの……!」


爽やかな朝の陽光の下、アレンの村の農園では、ジャージ姿(アレン作)の元聖女と元魔法使いが汗水を流していた。 スケルトン監督官が『カカッ(サボったら昼飯抜きデス)』と骨の指を振るうたび、二人は悲鳴を上げて作業速度を上げる。 かつてのエリート意識は粉砕され、今や立派な「下働き」として馴染んでいた。


そんな平和な光景を眺めながら、バルコニーでお茶を飲んでいたアレンに、向かいの席の人物が話しかけた。


「……どうだアレン殿。そろそろ『国』を作らんか?」 「ブフッ!?」


アレンは高級茶葉の紅茶を吹き出した。 向かいに座っているのは、すっかりこの村の常連客と化した国王レギスだ。今日も公務をサボって――いや、視察に来ている。


「いやいや、国って。俺はただのスローライフ希望者ですよ?」 「だがな、貴殿のこの拠点は、もはや一国の経済規模を超えておる。温泉、野菜、鉱山資源、そして戦力……。愚かな貴族どもが『領地として接収しろ』と騒ぎ出すのも時間の問題だ」


レギス王は真剣な眼差しで続けた。


「そこでだ。ここは余の直轄領ではなく、貴殿を元首とする『永世中立自治領』……いや、いっそ『独立国』として認めようと思う」 「はあ!? 陛下が自分の領土を減らすんですか!?」 「構わん。その代わり、余と王妃、そして数名の側近に『永年無料パスポート(VIP会員権)』を発行してくれればな」


ちゃっかりしていた。 だが、言っていることは理にかなっている。王国の法律に縛られず、面倒な貴族もしりぞけられるなら、独立も悪くない。


「……分かりました。シャルロットとも相談して前向きに――」


アレンが答えようとした、その時だった。


『――緊急警報。上空より、高速接近物体あり。大型竜種です』


またか。 アレンが空を見上げると、真っ赤な鱗を持つ巨大な飛竜ワイバーンが、轟音と共に村の上空に飛来した。 その背には、真紅の鎧を纏った一人の女騎士が乗っている。


「あれは……隣国『ガレリア帝国』の飛竜騎士団!?」 レギス王が驚きの声を上げた。 帝国は武力を重んじる軍事国家だ。ついに侵略に来たのか?


ズドォォォォン!!


飛竜はアレンの家の前庭に、砂埃を上げて着陸した。 そして、背中から颯爽と飛び降りたのは、燃えるような赤髪の美女だった。 鋭い眼光、引き締まった肢体。腰には大剣をいている。


「我こそはガレリア帝国第三皇女、ヒルデガルド・フォン・ガレリア! この地のあるじは誰だ!」


彼女は大剣を地面に突き立て、高らかに宣言した。


「我が国の密偵より報告があった! この地には『万病を癒やす泉』と『兵士を強化する食料』があると! その資源、我が帝国が管理させてもらう! 拒否するなら武力行使も辞さん!」


典型的な覇道ヒロインの登場だ。 レギス王が「むう、外交問題か……」と渋い顔をするが、アレンはため息をついて立ち上がった。


「シャルロット、どうする?」 「あら、野蛮なお客様ですこと。……でも、お顔をよくご覧になって?」


シャルロットが冷静に指摘する。 アレンがよく見ると、ヒルデガルド皇女の顔には濃い疲労の色が滲んでいた。鎧の下の肩は凝り固まり、足元も少しふらついている。 軍事演習の帰りに無理をして飛んできたのだろう。


「……なるほど。過労か」 「ええ。私たちの得意分野ですわね」


アレンとシャルロットは顔を見合わせ、ニヤリと笑った。



「おい! 聞いているのか! さっさと降伏し……きゃあっ!?」


ヒルデガルドが叫ぼうとした瞬間、彼女の足元の地面が動き、ベルトコンベアのように彼女を建物の中へと運んでいった。


「な、なんだこれは!? 罠か!?」 「いらっしゃいませー。カカッ(靴をお預かりシマス)」


玄関で待ち構えていたスケルトンたちに、一瞬で鎧を脱がされ、武器を預かられる。


「き、貴様ら! 放せ! 私は皇女だぞ!」 「まあまあ、そういきり立たずに。まずは旅の汗を流してはどうですか?」


アレンが指パッチンをする。 脱衣所に放り込まれたヒルデガルドは、そこに広がる『極楽の湯』の圧倒的な湯気と香りに、思考を停止させた。


「な……温泉……? こんな荒野に?」


抵抗する気力も削がれ、言われるがままに湯に浸かる。


「~~~~~~ッッ!!」


その瞬間、帝国の鬼姫と呼ばれた彼女の口から、可愛らしい声が漏れた。


「な、なんじゃこれは……! 戦場で受けた古傷が……消えていく……!? 重かった肩が……羽のようだ……!」


【超回復】と【精神安定】のダブルバフ。 戦いに明け暮れ、心身ともにボロボロだった彼女にとって、それは劇薬級の快楽だった。


一時間後。


「ふにゃぁ……」


湯上がりのヒルデガルドは、浴衣姿で骨抜きになっていた。 リビングのソファでだらしなく寛ぎ、手にはフルーツ牛乳を持っている。


「降伏だ……。こんな兵器おんせんを使われたら、勝てるわけがない……」


「気に入っていただけて何よりです。……で、資源を管理する話でしたっけ?」 アレンが意地悪く聞くと、ヒルデガルドは首をブンブンと横に振った。


「撤回する! 管理など無理だ! ……その代わり、同盟を結ばせてくれ! 我が帝国は、この村を全力で保護する! だから……!」


彼女は上目遣いで、アレンの服の裾を掴んだ。


「週末だけでいい! ここに来て、湯に浸かる権利をくれ! もう、あの硬い軍用ベッドには戻れんのだ!」


そこにレギス王が割り込んだ。


「抜け駆けはずるいぞ、ヒルデガルド姫。この地は我が王国との友好関係が先だ」 「なっ、レギス国王!? なぜこんな所に……まさか、貴国が独占する気か!」 「いや。そこで提案なのだが……」


レギス王、ヒルデガルド皇女、そしてアレンの三者会談(飲み会)が行われた。 その結果――。


『宣言』 本日をもって、この地を独立国家『アレン公国(通称:極楽温泉郷)』とする。 王国および帝国はこれを承認し、不可侵条約を結ぶと共に、両国の王族は「優先入浴権」を有するものとする。


世界二大国に認められた、最強の独立国家が爆誕した瞬間だった。


「やったー! これで税金かからないぞー!」 「アレンさん、国旗のデザインはどうします? やっぱり『温泉マーク』かしら?」


アレンたちが盛り上がる一方、荒野の片隅で一人震える男がいた。


「くそっ……なんか花火が上がってる……。俺だけ仲間外れかよ……」

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