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48話:邪竜ちゃんとタピオカミルクティー

 馬車2台がすれ違うことができるくらいの広い通りに、邪竜ちゃんは座っていた。邪竜ちゃんがいるから今は馬車は通れなくなってるけど。申し訳ないけど迂回してもらおう。

 この通りは他と比べて家が大きくて立派だ。きっとお金持ちの人が住んでいる区画なんだろう。

 そしてその中でも異彩な家から、甘い香りが外にまで漂ってきていた。

 その家は桃のような壁の色をしていて、大きなガラスの窓で店の中が見えるようになっていた。店の前は花壇と鉢植えのお花で彩られている。


「なんていうか、かわいい店だね?」

「結構男の人も来るから気にしなくていいわよ。ほら、あそこ」


 ガラスの向こうに男性客が一人でお茶をしていた。買ったその場で飲食ができるようだ。

 戸を開けると軽く引けて、チリンチリンと鈴が鳴った。


「あらぁ。可愛らしいお客さんいらっしゃい」

「あ、こんにちは」


 店主であろう女性は褐色の肌で髪に花の髪飾りをしていた。店の外観と同じように派手な方だ。

 店主さんは「こちらにどうぞ」と、男性客のいるテーブルの前の椅子を引いた。他のもう一つのテーブルは空いてるけど、相席した方がいいのかな? あ、そうか。他に女性の客が後から来たら、男がいるテーブルで分かれて困っちゃうもんね。なるほど。

 まあ、邪竜ちゃんが頭を入口から突っ込んでるので、客は来ないだろうけど。


『しょーとけーきより美味しいお菓子ちょうだい!』


 念話で僕に言われても。

 その言葉のまま店主さんに伝えたら軽く笑われた。別にいいけど。


「やあ。はじめまして」

「あ、はい。どうも……」


 小さい姉弟子さんと大きい妹弟子さんは隣のテーブルに着いたので、彼は僕に話しかけてきたのだろう。なんでだろう。一人客だし静かにお茶したいのかと思ったけど、誰がと話したかったのかな。


「話しは聞いてると思うが」

「聞いてませんけど」


 彼と僕は姉弟子さんの方を見た。彼女は妹弟子から渡された赤い石炭を眺めていて視線に気づかなかった。


「こほん。えっと、まずはエルシアの町へようこそと言っておこうか」

「はあ」


 話の流れからして、この人は領主さまなのだろうか。

 だけど領主さまがこんな店に一人でいるのかな? それに領主さまはもっと綺羅びやかな服を着ているはず。


「おれはこの街の領主だ」

「あ、やっぱり領主さまだったのですね」

「……そんなに威厳がなかったかな?」


 うーん。ない。

 僕が答えに困っていると、領主さまは頬を撫でて、顔をむにむにと動かした。

 領主さまは僕と似ていると聞いていたけど、そんなに似ているかなぁ? 碧い眼の色だけは似てるかもしれないけど。

 僕が領主さまの顔を眺めていると、店主さんがカップを僕の前に置いて、お茶を注いでくれた。


「この人はただの甘い物好きの人。それでいいんじゃないかなー?」

「そうだね。堅いのは抜きにしよう。この瓶にある砂糖を入れると美味しいよ」

「ありがとうございます」


 お茶に砂糖……。なんて贅沢な。ほんのり甘くて美味しい。

 邪竜ちゃんも頭を店の中で動かして、入り口がミシミシと音を立てている。壊れちゃうよ!


「ふう。それでこのドラゴンはなんなんだい?」

「邪竜ちゃんです」


 小さいクッキーをお茶請けとして出されたので、僕はそれをぽりぽりと囓った。思ったよりも甘くない。でも物足りないというわけでもない。バターがたっぷりと練られているようだ。

 これ、凄く高いんじゃない?


「邪竜か。それにしてはおとなしい子だね」

「おとなしくなんかないですよ。さっきも服を着るのを嫌がって街中を逃げ回っていたんですから」

「服……?」


 服の話は置いといて、僕は邪竜山と邪竜様について領主さまに話した。

 そしてお菓子な悪魔と出会って、しょーとけーきに感銘を受けて、もっと美味しいものが食べられると聞いてこの店に来た。


「ふふ。彼に会ったのか。面白い人だっただろう?」

「お知り合いなのですか。あ、ドラゴンスレイヤーの仲間でしたね」


 領主さまの腰の剣の鞘が、ものすごいマナで輝いて見える。きっと凄い剣なんだろう。


「これが気になる? ドラゴンの尻尾から出てきた剣なんだ」

「尻尾ですか」


 邪竜ちゃんの尻尾の中も気になる……。

 邪竜ちゃんをちらっと見た。姉弟子さんにクッキーで餌付けされていた。

 店主さんがやってきて僕の前に皿を置いて、視線が遮られた。


「おまたせー」

「おおー! あれ?」


 薄い生地の中に、しょーとけーきにも使われていた白いふわふわが入っていて、その中に色とりどりの果実が挟まっている。


「クレープよ~」

「これ、僕の村でも食べますよ。あ、でも、中身はお肉ですけど」

「あら? もしかして南の方かしら?」

「はい。あ、そうだ! 手紙を頼まれてました」


 僕は店主さんに手紙を渡した。

 そして目の前のクレープを手に取り、ちらっと領主さまを見たら手で催促してくれたので、僕はがぶりとかじりついた。

 おいちい!

 僕はぺろりと食べて、指も舐めた。

 邪竜ちゃんも街道に伸びた尻尾をぶるんぶるんと揺らしていた。

 ……ああでも、ショートケーキより美味しいかと言われると疑問だ。どちらも美味しいけど。なんというか、同じような味に感じたのだ。白いふわふわが同じ味なのかな。


「この手紙、あなた宛よ」

「拝見します」


 領主さまは店主さんから手紙を受け取った。

 なんだかにこにこ顔で手紙を読む領主さまは、まるで貴族に見えない。かと言って村の人みたいに品がないわけでもない。不思議な雰囲気の人だ。ちょっと父さんに似てるかもと思い、彼と僕は王族の末裔らしいという話を思い出した。

 手紙を読んだ領主さまは「彼は元気みたいですよ」と、姉弟子さんに渡した。姉弟子さんは「ふぅん」とそっけなくそれを受け取った。


「その、邪竜山というところで砂糖が採れるようだね」

「はい。正しくは邪竜山の麓の森ですけど。どうやって作るかは魔女のお弟子さんが詳しいです」

「えー!? 急に私に振らないでくださいよー!」


 彼女らは結局こちらの席へ移動してきた。

 お弟子さんに会話を任せてる間に僕は、次に置かれた土を溶かしたような飲み物に黒い魚の卵のようなものが沈んでいるものを頂くことにした。

 あまぁい! それに黒いのがもにゅもにゅしている。面白い!

 邪竜ちゃんも変な顔して口をもにゅもにゅと動かしていた。

生クリームクレープにタピオカミルクティー警察だ!(見たことない)

店主さんは地球からの異世界転生者とかそういうわけではない。

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