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47話:邪竜ちゃんと姉弟子さん3

 ところで邪竜ちゃんが僕の姿になったのはいいものの、服はなく素っ裸だ。

 身体の性別は……つるっとしているのでどっちでもない。よく見てないからわからないけど。邪竜ちゃんが巻いていたスカーフにくるませた。

 そして姉弟子さんの服がちょうど良さそうなサイズなので、借りて邪竜ちゃんに着せようとした。


「服いやー!」


 邪竜ちゃんは逃げた。

 窓から飛び出て、たまたま外にいた髭のおじさんがびっくりしてぎょっとしていた。

 姉弟子さんが魔法の言葉を唱えて杖を向けると、氷の檻が邪竜ちゃんを囲った。

 しかし邪竜ちゃんはどろりと溶けて、ドラゴンの姿に戻って檻を壊し、空で飛び立っていった。

 それを見たおじさんは腰を抜かした。


「大丈夫です! ただのドラゴンですから!」


 僕はおじさんに声をかけて、邪竜ちゃんを追いかけた。

 だけど土地勘がなくて裏路地に入ってしまい、邪竜ちゃんを見失ってしまった。


「どっち行った!?」

「わかんない」

「まずいわね……筋肉馬鹿に見つかったら殺されるわよ」

「それって領主さんのことですか?」


 姉弟子さんは「は?」と僕を睨み、首を振った。


「モンスターみたいな奴よ。見つかったら狩られるわ。近くにいなければいいけど」

「モンスターって……」


 そんなのが住み着いてるのこの町?

 緊急事態を知らせる鐘は鳴らされていないものの、大通りに出たら腰を抜かす人や、狂乱している人が沢山いた。泣き叫ぶ人までいる。


「この町はね。10年前にでかい犬に襲われて、この辺一帯が破壊されたのよ」

「でかい犬ですか」


 犬か。なんだかあまり怖くなさそうだけど。

 でも邪竜ちゃんくらいの大きさの犬だったらやっぱり怖いかも。街を破壊するような犬だし。

 姉弟子さんは衛兵の一人を捕まえて、逃げた先を尋ねた。指を差した方向は教会だった。


「また面倒な方へ逃げたわね」

「やっぱり教会は面倒なのですか?」

「この街だと特にね」


 教会では死んだ人とか神様とか崇めるけど僕にはよくわからない。


「教会はその犬の騒ぎで一度破壊されたし、聖女を犠牲にしたし色々あったのよ」

「それは……」


 邪竜村でいうと、巫女ばあやが死んでしまった感じなのかな。確かにそれは困りそう。

 走りながら姉弟子さんは僕の顔をちらりと見て、「ああ」と付け加えた。


「その聖女は死んだわけじゃないから気にしなくていいわよ」

「え、でも犠牲って」

「だから色々あったの。あら、あんなとこにいる」


 教会の頭の薄い人達が上を見上げていた。

 姉弟子さんが指差す方を見上げたら、邪竜ちゃんは教会の天辺に止まっていた。


「ああ、またか」

「またって、他の街でもあれやったの?」

「やりました」

「それは……面白い子ね」


 何が面白いのか、姉弟子さんはくすくすと笑った。

 遅れてやってきた妹弟子さんは顔を青くしていた。


「それで、どうするの?」

「置いていこう」


 姉弟子さんは僕の方を見て「え?」と言った。

 だって、ぐずった邪竜ちゃんはどうしようもないし。

 だから僕は邪竜ちゃんに向かって一言だけ叫んだ。


「先にお菓子食べに行くね!」


 僕は姉弟子さんの手を掴んで、「行きましょう」と邪竜ちゃんに背中を向けた。

 10歩ほど歩くと邪竜ちゃんから『行くー!』と念話が聞こえてきた。

 飛び立つ時に邪竜ちゃんが屋根を蹴ったのか、背後からガラガラと崩れる音と悲鳴が聞こえるけど、聞こえない振りをした。みんな上向いてたし、怪我はしないだろう。多分。


「ななななんで手を掴んだの!?」

「あ、ごめん。つい」


 顔を赤くした姉弟子さんに手を振りほどかれた。

 こんなことで恥ずかしがられても。さっきはそっちから掴んできたし。


「違うわよ!」

「何が?」

「手を掴むのと掴まれるのは違うの!」


 ふうん。そんなことよりお菓子やさんに案内してほしいなと思ったら、今度は妹弟子さんが反対側に立ち、僕の腕を取った。


「魔法使いは手が重要なんですよ。魔法を使う時は手からですからね。だから心を許した相手にしか手は掴ませません」

「それってつまり?」

「『お前は俺のもんだ』と言ってるようなものですねぇ」


 大げさな。またお弟子さんの冗談かなと思ったが、姉弟子さんからの反応はなかった。呆れてるといった感じでもない。

 ……本当なの?


「えと、ごめんなさい」

「別にいいわよ。それよりもう一度握って」

「え?」


 今度は僕が手を掴まれた。

 姉弟子さんの手は冷たい。氷の魔法を使うからかな。


「使ってみてよ。黄金の天使の魔法」

「あ、はい」


 僕が手に魔力を込めると、姉弟子さんは眉間に皺を寄せた。

 そして「あっ! だめっ! そんな一気に奥まで!?」と喘ぎだした。大丈夫?

 反対側でお弟子さんが白い目で見てくる。


「なんかエロいですね」

「何もしてないよ!?」


「もういいから! やめて!」

「あ、はい」


 僕が魔力を止めると、姉弟子さんはふぅと息をついた。


「原初の回復魔法。あんたはそれで私の何を治そうとしたのよ」

「ええと」


 怪我してないから治そうとか考えてなかったけど。

 あ、でも、手が冷たいと思ったから、温かくなるといいかなと思ったかも。

 僕がそう伝えると、温かくなったと思った手が、急に冷たくなってきた。


「つめた! やめてよ!」

「ううん。こうじゃないか……」


 なんか僕の身体で実験してないこの人?

 妹弟子さんも僕の手を掴んでいて、じっとり濡れていた。汗じゃないよね?


「あれぇ? でも姉弟子は魔力注ぎ込むの得意でしたよね?」

「こんな一気に注ぎ込むなんて無理よ。普通は無理。やっぱあんたは本当に普通じゃないようね」


 普通じゃないと言われても。僕は魔法のことはちょっとしか習ってないからわからないけど。


「水に油注いでも混ざらないでしょ。そういうことよ」

「魔力は混ざらないんですか?」

「混ざる。水と油だって頑張れば混ざる」


 なるほど。頑張らなくても混ざっちゃうのか僕の魔力は。

 え? なにそれこわい。


「って、こんなことも知らないなんて、師匠から何を習ったのよ」

「えっと、山の中のマナの話とか……」

「ちっ。あの自然魔法主義者め」


 妹弟子さんはこっそりと「姉弟子は技術論派の異端者なんですよ」と教えてくれた。

 反対側からは「妹弟子は化石の生えた精霊原理よ」ときっと悪口なんだろうことを言ってきた。

 僕の右手が冷たくなり、僕の左手はじとって濡れてくる。

 水と油というか、水と氷というか。僕越しに喧嘩しないで欲しいんだけど。


『甘い匂いするー!』


 邪竜ちゃんは先に飛んでいって、お菓子やさんを先に見つけちゃってるし。

最近サブタイトルがナンバリングになってるのは、123まとめて一話くらいのはずだったからです。姉弟子は話が長い。ありえない。


・自然魔法主義:魔法は自然が力を貸してくれるものだからあるがままに従うべきという、それを言い訳にしてだらけてる師匠。(例えるなら草ぼうぼうの庭)

・精霊原理:精霊が住みよい環境を人が用意してあげるべきですよという、美味しいもの食べたいだけの妹弟子。(例えるなら家庭菜園の庭)

・技術論派:「魔法理論楽しい!」で知識欲満たして、暇があると魔導具とか開発しちゃう姉弟子。(例えるならプランター管理で品種改良しちゃう庭)

・教会:魔法だけの部分でいうと、魔法は人のためにあるものという都会的な考え。(例えるならガーデニングされた庭)


なお、実際に派閥があるというわけでもそんなない。

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