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43話:邪竜ちゃんは双子のお姫様の妹

「ほらあそこ! 山が崩れてるよ!?」

「本当ですね。落盤? いや、石を採っている?」

「石を? 山から?」


 邪竜村では父さんが草原の岩や遺跡を削っているので、石を採るのに山を削るというのは初めて見た。

 これを邪竜山で行ったら、巫女ばあやが泡吹いて倒れるかもね。邪竜山を削るのはダメというのもわかる。


「何か慌ててますね」

「事故が起きる前に離れた方が良さそう」


 原因は明らかに僕たちだ。邪竜ちゃんを指さしてひっくり返っている。

 石を落として脚が潰れてる人もいる。


「あっ! 大変だ!」


 このまま見てみぬ振りをするのも悪いだろう。

 治して上げなきゃと思ったら、邪竜ちゃんは石を運ぶ人たちへ向かって急降下した。

 そして慌てて逃げ出す人を空から追いかけ始めた。


「邪竜ちゃん! めっ!」


 妹が猫を追いかけ回すかのように、人にじゃれつこうとするのを、僕は邪竜ちゃんのスカーフを引っ張って止める。

 そして僕は地面に飛び降りて、怪我をした人へ向かった。


「ひぃ!? 竜騎兵!?」

「りゅうき……? 大丈夫です。いま治しますから」


 僕は脚潰れおじさんの脚に手を当てて、身体をぴかーっと黄色く輝かせた。

 おじさんのぐにゃりと曲がった脚がまっすぐに戻っていく。


「ふう」

「なっ……これは……えっ?」

「それじゃあ僕たち行きますから。お騒がせしました」


 悪いけど小さい怪我は見逃すことにする。ここに留まる方が被害が大きくなりそうだし。

 僕は邪竜ちゃんに向かって走りだしたら、ぐにゃりと地面が歪んで僕はその場に倒れてしまった。


「あ、あれ……?」


 気持ち悪い。

 僕は地面に膝と手を付けているはずなのに、まるで羊の背中に乗っているかのようだ。ぐらりぐらりと揺れていた。

 地震というわけではない。僕の感覚が揺れている。


「まなけつぼう……」


 お弟子さんが駆け寄ってくる音が聞こえたところで、僕の意識はぷつりと落ちてしまった。



「ん……ここは……」


 目覚めると邪竜ちゃんのお腹の上だった。空はすでに薄暗くなっている。


「あ、起きましたか?」


 お弟子さんが僕の頭にあったねとりとしたものを洗い流し、別の液体を塗った。なんだかひんやりする。


「どのくらい寝てたの?」

「本当なら三日は寝込むところなのに、すぐに目覚めるだなんてさすがは竜の巫女様ですねぇ」


 よかった。大したことはなかったようだ。マナ欠乏症は重いものだとそのまま死んでしまうこともあるらしい。

 僕はお弟子さんに礼を言うと、「邪竜ちゃんにも礼を言ってあげて」と言われた。


「邪竜ちゃんと繋がっているからすぐに回復したんですよ」


 魔女さまに初めて会った時に、僕は邪竜ちゃんと魂が繋がっていると言われて悪魔扱いされた。繋がってるというのはそのことだろう。


「邪竜ちゃんありがとう」


 邪竜ちゃんは寝てるけど。


「二人は離れない方が良いですね。今までも本能的にそうしてきたのではないですか?」

「そうかな……そうかも……」


 僕が邪竜ちゃんのねぐらに住み着いたのも、邪竜ちゃんがよく僕を追いかけてくるのも、もしかしたら大きく離れないようにしてたのかもしれない。

 僕が一人で町に行った時も、邪竜ちゃんはずっと寝てたと言ってたし。


「とにかく、今日はここで一晩泊まりましょう。エルシアは隣町とのことなので、明日すぐに着きますよ」

「あ、そういえば、大丈夫だった? 邪竜ちゃんのこと」

「ええ。苦労しましたが……」


 僕と邪竜ちゃんをくっつけようとしたものの、お弟子さんは邪竜ちゃんと会話ができないから伝えられなかったようだ。……そういえばみんなは邪竜ちゃんと会話ができないんだった。なんか悪魔一行の人たちは自然と邪竜ちゃんと会話してたから忘れてたけど。

 それに邪竜ちゃんは石運びを手伝おうとしたりして、余計にみんなを騒がせた。

 結局邪竜ちゃんを肉と薄めたお酒で釣って寝かせて、ここは僕たちが降り立った採石場の近くのようだ。


「スカーフ巻いといて良かったですよ。ちゃんと効果ありました」

「あれでみんな安心してくれたんだね」

「ええ。呪いでドラゴンになったお姫様ということになりました」

「え? なんで?」


 最初はお弟子さんはしどろもどろでペットという説明をしたのだけど、その様子から何か隠してると感づかれたとか。そしてお弟子さんは「邪竜様」と言わずに「聖竜様」と嘘を付いていたので、やんごとなき方と噂が広まったらしい。


「まあいいか。問題はあるけど」

「すみません。邪竜様の名を出すと余計に混乱を起こしそうだったので……」

「聖竜はまずいよね……。聖竜って感じじゃないし……」


 わるい子だし。聖竜なんて呼ばれるドラゴンだとしたら、酒のんで腹出して寝ないだろうし。

 僕が目覚めたことに気づいたのか、脚が潰れたおじさんがやってきて僕に跪き礼を言った。そもそも怪我の原因が僕たちなのだから礼はいらないと断った。だけどお腹はぐぅと鳴ったので、夕食のスープは頂いた。

 僕は偉い人じゃないから、普通に接してと言ったら「身分を隠されているのですね」と言われてしまった。なんのこっちゃ。

 そうして出てきた話がこうだ。


「それにしても妹の呪いを解くためにエルシアまで旅とは。エルシアならきっと治りますとも。ええ。奇跡の町ですから」


 なんだかわけのわからない話しになっていた。 

 僕たちは、ドラゴン化の呪いの掛かった双子のお姫様の妹を助けるために旅をしてることになった。

 僕はちらりとお弟子さんを横目に見た。

 お弟子さんはそっと目を反らした。

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