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39話:邪竜ちゃんとインサイドループ

 久々に邪竜ちゃんのねぐらに帰った。

 かまどに火を入れると、そこに棲む火の猪精霊さまはくるくる回って喜んだ。

 だけど食事の準備は後。邪竜ちゃんとお弟子さんは崖上で赤い木炭作りのために穴を用意しているところだ。

 穴に水を入れて捏ねて粘土を作る。邪竜ちゃんは泥遊びになってるけど任せることにする。

 そして赤い木炭作りのために、二つ炉を作った。炉と言っても、二種類の薪を三角錐に立てて、粘土を付けていったものだけど。

 片方には邪竜ちゃんの炎で。片方はかまどで作った火から移して点火した。

 炎の勢いが凄い前者の方に急いで粘土を固め、後者はとりあえず一通り火が回るまで待つ。煙突状になった下部かた頭頂部に向けて風の精霊が駆け抜けて、ごおぉと音を立てて炎が噴き出す。

 一つ目が終えたところで二つ目も、穴を粘土で埋めて風の精霊が通り抜けないようにして、風と火の精霊を中に閉じ込めた。

 風の精霊と火の精霊は仲良しだけど、閉じ込めると喧嘩して、どちらもいなくなってしまう。

 風の精霊がいなくなって元気を無くした火の精霊は、木の精霊に助けを求めて薪の中へ逃げ込む。火の精霊が薪の中に棲み着いてできるのが木炭だ。


「前と同じ方法で全部作ればいいんじゃないの?」

「それじゃあダメなんですよ」


 とお弟子さんは言う。今回は、失敗することが大事だとか。

 用意した薪は、邪竜山で採れた物と、魔女さまの裏庭で採れた物。

 そしてそれらを同時に、二つの炉で木炭を作る。


「それじゃあ巫女様。よろしくね」


 そしてお弟子さんは帰っていった。出来上がるまでに三日かかるしね。

 その間に僕は、雨が降っても大丈夫なように簡単な屋根を作ったり、乾燥してひび割れた炉を粘土で穴を塞ぎ直したりした。

 三日後、出来上がりは予想通りだった。


「やはり全ての条件が必要みたいね」

「少ししかできなかったね」


 綺麗に成功したのは、邪竜山の薪で邪竜ちゃんの炎を使ったものである。

 次点で森の薪で邪竜ちゃんの炎を使ったもの。

 そして森の薪で邪竜ちゃんの炎を使ったもの、かつ魔女さまの裏庭で作ったものであった。

 邪竜山での四種類の試みの他に、魔女さまの裏庭で「森の薪で邪竜ちゃんの炎」「邪竜山の薪で魔女さまの炎」の二種類も試されていた。


「ううん。やはりこれは邪竜様でないと作れないものですね」

『すごい?』

「すごいすごい」


 邪竜ちゃんは胸を張った。


「なんだか普通の木炭がたくさんできちゃったね」

「いいんですよこれで。むしろ軽く煌めきが見えるくらいがいいんです」

「え? そうなの?」

「売る場合にはですね」


 なるほど。

 僕は純度の高い赤い木炭を店に持ち込んだけど、買取ではなく領主さまへの献上品となった。

 あまりにも綺麗なものになりすぎると、平民が無断でやり取りしていい品では無くなってしまうのだ。

 それに、純度の高いものは火力が強すぎて木炭として使えないもんね。

 僕がそういうと、お弟子さんは首を横に振った。


「用途だけなら鍛冶で使えます。それに高火力で実験したい研究者も欲しがりますよ」

「あ、そっか。それなら村の鍛冶のおじさんにもあげようかな」

「専用の炉を作らないと壊れてしまいそうですけどね」


 うーん。やっぱりいまいち使い勝手が悪いよねえ。

 僕は出来上がった薪を全てまとめて背負い、邪竜ちゃんの背中に乗った。


「お弟子さんも一緒に」

「まじすか。落ちたら責任取ってくださいね」

「責任て……。回復魔法はするけど……」


 お弟子さんはびくびくしながら邪竜ちゃんの背中に乗って、僕の前に座った。

 邪竜ちゃんが「ぐぁ」と吠えて、まずは魔女さまの家に向かって出発。

 びゅうんと山を滑空して、あっという間に裏庭に到着。

 そして着地と思ったら、邪竜ちゃんはぐるりと縦に一回転した。


「きゃあぁ!!」

「お弟子さん!」


 驚いて手を滑らせたお弟子さんは体勢を崩してまっすぐ裏庭に落っこちた。

 お弟子さんの墜落と共に、魔法の水がばしゃんと辺りに飛び散った。魔法で衝撃を和らげたようだ。


「なにしてんのもう!」

『にひひっ』


 無事を確認しようと降り立った後すぐに駆け寄ったものの、お弟子さんはびくんびくんと身体を痙攣させていた。無事じゃないや。

 急いで両手に魔法を込めて、治れと念じる。治った。


「あいたたた……。本当に子供が産めない身体にされてしまったわ」

「もう。死にかけてたんだから変な冗談は止めて下さい」


 お弟子さんは何事もなくぴょいんと立ち上がったので良かった。それどころか「以前より調子が良い!」と喜んでいた。

 複雑な気分だ。


「さてと、それでは旅の支度をしてきますね。少々お待ち下さい」


 僕は裏庭のチョコレートの木を眺めて暇を潰した。

 チョコレートの木には白い花が咲いていた。旅から戻ってきたら、チョコレートの実が生っているのだろうか。

 あんな甘くて美味しい丸いチョコレートの実は、どんな形で生るんだろう。あの形のまま木に生るのか、それとも実の中身がチョコレートなのだろうか。そのままだったら全部虫に食べられちゃいそうだから、きっと固い実の中身なんだと思う。


 チョコレートの実を想像していたら、魔女さまの家の中から騒々しい物音が聞こえてきた。

 そして見知らぬ男が、魔女さまの魔法で叩き出されてきた。

 魔女さまは男に向かって杖を向け、「悪魔め! 殺す!」と炎を放った。

 魔女さまが目の敵にする悪魔の男……。そう、邪竜ちゃんの背中から一瞬だけ見覚えのある、悪魔一行の四人目だ。

 そして彼は風のような速さで姿を消したと思ったら、一瞬で僕の背後に立ち、僕を盾にしたのであった。

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