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33話:邪竜ちゃんと黄金の天使

 魔女さまの家に戻ったら、魔女さまは銀髪のドラゴンスレイヤーの少女に向かっていきなり魔法をぶっ放した。

 少女はそれを難なくかわし、魔女さまに蹴りかかった。

 魔女さまは風を起こしてふわりと浮き上がり、少女は腰を屈めて飛び上がり追撃する。魔女さまはそれを炎の魔法で迎撃するも、少女の空中回転蹴りで炎は消え去った。

 そして魔女さまの手に持つ杖、僕があげた先端だけが赤い木炭になった出来損ないの薪を少女は手刀を放ったが、寸前で止めた。

 二人は何事もないように地面に着地し、すたすたと歩み寄った。


「良いもの持ってるじゃない」

「良いだろ。そこの子がくれたのさ」


 少女がこちらに振り返った瞬間、今度は邪竜ちゃんが少女に向かって飛びかかった。

 少女は自ら後ろに倒れて、邪竜ちゃんの腹を蹴って投げ飛ばした。(要するに巴投げである。)


「邪竜ちゃん! 遊んでるわけじゃないよ!」

「遊びよ」

「遊びだね」


 遊びなの!?

 お弟子さんがお茶を持ってきた。冷たいお茶だ。水出しのハーブのお茶とのこと。

 僕とお弟子さんは丸太を削った椅子に隣り合って座り、お茶を飲みながら彼女らの遊びを観覧した。


「あの。魔女さまはなんで少女を攻撃したのですか? 悪魔だからですか?」

「そうよ。師匠は悪魔嫌いだからねぇ」

「でも、僕も悪魔らしいですよ?」

「そうなの? でも竜の巫女ですよね」


 そうだけど。驚いたりしないのかなと思ったけど、悪魔一行が尋ねてきた後だし、悪魔なんて今更なのかもしれない。

 僕とお弟子さんが会話してる頃、悪魔の銀髪の少女は飛んで跳ねて、邪竜ちゃんのパンチや尻尾をかわしながら、魔女さまの魔法をかき消していた。

 あんな凄い戦いができるのも悪魔だからなのかな。


「悪魔ってなんなのです?」

「んー。悪魔っていうのは要するに、マナを沢山持った人間のことよ。マナっていうのは、邪竜山の魔法の力のことね」

「ということは、魔獣や魔物と同じですか?」

「そうそう。巫女様も邪竜様のマナを沢山持っているでしょ? だから広義的には悪魔になるのかもね」


 へぇ~。

 あれ? それだと沢山魔法を使っている魔女さまも悪魔なのでは?


「と、思ってる顔してるね? 私達が魔法を使う時は、外のマナを使っているのよ。内なるマナは外なるマナを変換するために使っているに過ぎない、ってね。その変換術式を魔法と呼んでいるに過ぎない。昔の人の言葉よ」

「へぇ。なんだかよくわからないですね」


 お弟子さんはふふふと笑った。


「魔法を習っていないのだからそれはそうでしょう。だけどほらっ」


 魔女さまがお風呂を沸かした時に使った炎の魔法と、邪竜ちゃんの炎の息が、悪魔の少女に同時に襲いかかった。

 だけど、少女は拳で地面を叩き、衝撃波が周囲に広がり、炎を全てかき消した。


「悪魔の魔法は何でもありなのよね~」

「あれも魔法なんですね」


 なんで蹴ったりしただけで炎が消えるのかと思ったら、それも魔法だったのか。

 すると、少女が邪竜ちゃんの尻尾を掴んでぐるぐる振り回してるのも魔法なのかな。どう考えても小柄な少女が太ったドラゴンを振り回すとか無理だもんね。

 少女が邪竜ちゃんを投げ飛ばすと、魔女さまはそれに潰された。


「あっ」

「ああ!?」


 魔女さまはまた風の魔法で避けると思ったのだろう。だが魔女さまは逃げ切れなかった。


「ちょっとまずそうですね。薬取ってきます」


 お弟子さんは家の中へ駆け込んで行ったので、どうやら本当に事故だったようだ。

 少女と邪竜ちゃんはあちゃあと言う顔で、潰れた魔女さまをつんつんとしていた。


「大丈夫ですか?」

「だめかも。虫の息ね」

『太ってないもん』


 いや、邪竜ちゃんは太ってるけど。

 お弟子さんが光り輝く瓶を手に走ってきて、魔女さまへ中身をぶち撒けた。

 魔女さまの身体が眩しい光に包まれるが、意識を取り戻さなかった。


「あ、ちょっとこれほんとに死にますね」


 こ、こんなことで……?

 邪竜ちゃんがぽっちゃりなばかりに、こんなことに……。


「そ、そうだ。悪魔の魔法なら何でもできるんでしょ? それで怪我を治したら……」

「傷を治せる悪魔なんているわけないじゃない」


 そう言って少女は笑った。その無邪気なかわいらしさに思わず釣られて僕も笑いそうになったけど、笑えるような状況じゃないって!

 やっぱり悪魔は悪魔なのかも。

 そして邪竜ちゃんも魔女さまの瀕死に対して全く気にした様子はない。潰したこと自体よりも、自分の身体の重さの方を気にしてるみたいだ。


「これはもうダメかもしれないね」

「く、薬はもうないのですか?」

「さっきのが一番効くやつだよ。ほら、安らかな顔してる」


 言われてみれば魔女さまは穏やかな顔をして、鼻と口から血を流していた。


「ダメじゃないですかー!」

「巫女くんが治してみたら?」


 魔女さま瀕死の元凶の悪魔が、僕の腰に手を回してそう言ってきた。


「なんで僕が……」


 ダメ元だ。僕だって竜の巫女として、邪竜ちゃんの力を分けてもらっている状態らしい。

 手のひらに身体の中の何かを集めて、魔女さまの身体に触れた。そしてうぬぬぬとその力、お弟子さんはマナと言ったっけ、マナに呼びかけてみる。


「魔女さまを治して」


 僕の身体と魔女さまが黄金の光に包まれた。

 そうか。このキラキラは見たことがある。マナって精霊さまの力でもあるんだね。


「黄金の天使……」


 お弟子さんがそう呟いたのが聞こえて、僕も一目見ようと見回したけど、天使の姿はどこにも見えなかった。

 魔女さまは何事もなかったかのように起き上がり、「失敗しちゃったわ」と何事もなかったかのように喋った。

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