25話:邪竜ちゃんと料理
なんだか料理回を入れたくなったので閑話みたいなもの!(いつもどおりやん)
※昆虫食あるので苦手な方は注意!
あまりにもしょーとけーきが衝撃的だったのか、近頃の邪竜ちゃんはおとなしくなった。時々ねぐらの入口で遠い目をしている。
お菓子の悪魔の少女が帰ってしまったことが心にクッキーが刺さったままのようだ。かく言う僕もあの虹色にきらきら輝く長い髪を、星のお菓子を見るたびに思い出してしまう。
「はぁ……」
「ぐぁ……」
邪竜ちゃんが獲ってきた鳥の羽を無心でむしむしとむしる。
今日はスープではない、いつもと違うものが食べたいな。
僕は森に入り、香草や小さい果実を採ってきた。
爽やかな香りと酸味の強い実を潰して鳥肉に塗り、割いた中にも塗り込んだ。そして少し辛味のある若葉と、ぴりりと刺激のある花の種も腹の中に詰め込んだ。
そしてその鳥肉2つをつるりとした数枚の大きな葉で包み、芋の蔓でしっかりと縛り上げた。
崖上の、畑であった場所。粘土を作った穴に葉で包んだ鳥肉を入れて、周りの土をかけて埋めた。
『なんでー?』
邪竜ちゃんが「お肉埋めちゃった?」と不思議そうな顔で見ている。
「この上で火を炊いて蒸し焼きにするんだよ」
『むしー?』
邪竜ちゃんが大きい虫を捕まえて見せた。
違うから。虫を焼いて食べるんじゃないから。
どうせなら付け合せの蟻や芋虫を枯木から獲ってきて欲しい。
「外だし生木を燃やしたのでいいかな」
生木を燃やすと煙が沢山出てきて洞窟だと困ってしまう。
だけど外ならいいよね。すぐに燃えるように赤い石炭を使っちゃお。
一本だけのはずなのに、火柱が木々の背丈ほどまで噴き上がり、煙がごうごうと立ち上った。
だ、誰も人いないから大丈夫だよね? 山火事と勘違いされないよね?
地面に埋めた蒸し焼きの良いところは火力を調整しなくてもいいことだけど、流石にちょっと強すぎるかも……。
火がもったいないので上に寸胴鍋を置いてお湯を沸かした。もちろん自分では置けないので、邪竜ちゃんに頼んだ。
邪竜ちゃんが雑なせいで水がちょっと溢れたけど、そのおかげでいい具合に火力が調整された。
『まーだー?』
邪竜ちゃんが急かすので、芋虫を枝に刺して軽く火で炙った。
塩漬け肉から削った塩を振りかけてかじりつくと、じゅわりと甘い肉汁が口の中に広がった。
僕が一口食べると邪竜ちゃんが横から奪い取り、枝ごと口に放り込んでもぐもぐと噛み砕いた。
『うまま』
「もー」
僕はお湯の入った寸胴鍋の上に重ねて、以前の普通の鍋を置いた。そしてチーズを入れて溶かしてかき混ぜる。ぬちょおとさじが黄色い糸を引いた。チーズは魔女のお弟子さんのお土産に貰った。
『きもちゅわるい……』
「チーズ初めてだっけ」
なんでも食べる邪竜ちゃんでも、気持ち悪く感じるものあったんだね。
僕は炙った芋虫を溶けたチーズにくぐらせて食べた。んー。おいちい。
僕の様子を見て、邪竜ちゃんも真似してチーズをちょこっと付けて芋虫を食べた。
邪竜ちゃんはくりくりした目を細めて、鍋を持ち上げ口の中に丸ごと溶けたチーズを流し込もうとした。
「待って! ダメだよ邪竜ちゃん! 鳥肉にも使うんだから!」
「ぐぁぅ……」
邪竜ちゃんは手をぷるぷる震わせながら鍋をそっと戻した。
そして邪竜ちゃんはもう我慢出来ないと、薪の下を掘り始めた。んもー。
取り出した葉がところどころ焦げている。やっぱちょっと火力が強すぎたかも。
だけど葉を開いてみたら、ちょうどよい具合にこんがり蒸し上がっていた。
邪竜ちゃんは中のお肉を溶けたチーズの中に転がした。
お肉とチーズが雑に絡み合い、見た目はなんともおぞましい感じになってしまったが、きっと間違いなく美味しい。
「山の恵みに感謝を」
「ぐぁあ」
僕がお肉をナイフで切り取る間に、邪竜ちゃんはもう一つのお肉を丸ごと口の中に放り込んだ。
邪竜ちゃんは『おいしー!』と転がり回るようなことはなく、じっと伏せた格好で目を閉じて口をもきゅもきゅ動かしていた。口の端からチーズと肉汁が溢れている。
あれぇ、いまいちだったのかなと思いつつ僕も口にしてみたが、手間をかけただけはあってとても美味しかった。お肉さいこう!
「なんだか静かだけど、大丈夫?」
『味わってるから静かにして』
「あ、はい」
なぜか怒られた。
まあでも、お菓子を食べた時のような跳ね上がるような美味しさとは違うよね。
こう口の中に広がる油を生命力を味わうというか。
僕より邪竜ちゃんの方が大人だった?
『スープもいいけど、今日のはもっと美味しかった!』
「良かった。また今度違うものを作ろうか」
『なになにー?』
「えとねー。細かく切ったお肉を卵と混ぜてこねて焼いたり」
『まずそう!』
えー。美味しいのに。
でも鳥の骨を楽しそうにバリボリ噛み砕く邪竜ちゃんだと、歯ごたえがある方が好きなのかな?




