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21話:邪竜ちゃんと木炭

 結局また服を手に入れ損なったことに、ねぐらに戻ってから気がついた。

 急に攻撃されたからしょうがないよね。いや、邪竜ちゃんが脅かしたせいだけど。

 ということで、今日もねぐらで巫女服を着ている。だいぶ着慣れてきた事を不安に思う。

 僕は谷風で巫女服をひらひらとさせながら、谷底の川を眺めた。

 そう、お風呂作りを考えているのだ。


「だけど、増水したら壊れるよね」


 魔女さまの家のように、川から水を引き込んで作ったとしても、雨が降ったら川辺は全部沈んでしまう。

 そうなると川辺に穴を掘った露天風呂は諦めるしかない。

 では崖上に作るかというと、今度は水をどうやって汲むか迷うところだ。川から水を汲んでくるだけで一日が終わってしまう。

 ううむ。やはり妥協をするべきかなぁ。


「ねぐらの前にレンガで囲って小さいお風呂を作れば良いんだけどね。どう思う?」


 邪竜ちゃんに尋ねてみたけど興味なさそうだ。小さいお風呂だと邪竜ちゃんは入れないから。

 でも身体を洗うためじゃなくて、貯水槽に使うべきだよね。作ったとしても、僕はお風呂のために使わないと思う。それはそれで便利だけど。

 雨水を貯める池を作ろうかな。


「魔法で簡単に作れたらいいのにね」


 僕はかまどの火の豚精霊に話しかけてみた。

 冬の乾燥した薪ももう残り少ないんだよね。

 あっ、木炭作ろうかな。

 よし!


 最初にやろうと思っていたことと、実際始めたことが違うのはよくある話で。

 結局優先することは、目の前にある問題の解決になってしまうのだ。

 僕は崖上に上って、畑の芋の蔓が成長しすぎてこんがらがっているのを見て、芋を収穫することに決めた。

 ほらね。また横道に逸れていく。


「邪竜ちゃん。今度すごく美味しいもの買ってくるから手伝って」

『ほんと?』

「ほんとほんと」


 邪竜ちゃんの力を借りる。

 邪竜ちゃんは後ろ足で畑の土を掻き、苗の根本の鳥獣対策の石組みごと大きく穴を掘り出した。

 石と土と芋が空を飛び、ぼとぼとどかと落下してくる。

 まんまるの大きい、僕の頭くらいあるいくつもの根塊が地面に転がった。

 それをロープを付けた籠に入れて、ねぐらへ下ろしていく。

 その間に邪竜ちゃんには、畑の穴を2つにしてもらう。

 そして片方の穴に水を入れて、粘土を作る。


「あ、結局水汲みをしなくちゃだ……」


 うーん。何か手軽な方法はないだろうか。

 邪竜ちゃんは機嫌が良いから、頼んだらまだ働いてくれそうだ。


「邪竜ちゃん。この畑の穴に水を入れたいんだけど、良い方法ないかなぁ」


 邪竜ちゃんに聞いてもしょうがないかなと思いつつダメ元で聞いてみたら、邪竜ちゃんは勢いよく谷底の川へ向かって飛び込んだ。

 そして水しぶきを撒き散らしながら、ばさばさと飛んで戻ってきた。

 その口はぷっくりと膨らんでいた。

 え? 急に機嫌が悪くなった?

 と、思ったら、口からだばぁと川の水が出てきて、穴を十分な量の水で満たした。


「凄い! 賢い!」

『賢い? てんさい?』

「邪竜ちゃん天才!」

『いひひっ』


 お手軽な水汲みにこんな方法があったなんて!

 これならお風呂も!? ……邪竜ちゃんの口に入れた水でお風呂はちょっと違うかな。


『穴に水いれた。どうする?』

「土と混ぜて捏ねるんだけど……、それより木炭にする枝を、別の穴に集めてくれないかな。」

『あいっ!』


 僕は巫女服を脱いで、水の入った穴に土を入れて、踏んで踏んで踏んだ。

 沢山ある芋の蔓も叩いて混ぜ込んでいく。残りは茹でて食べよう。

 邪竜ちゃんが集めてきた生木の薪を、バキバキベキと折っていく。

 そしたら二人で縦向きで円錐状に並べていく。


『できたー』

「今度は炉を作るよ」

『まだあるの?』


 まだあるの。

 円錐状の薪の周りに、畑で使っていた石を並べていく。そしてぺたぺたと粘土で覆っていく。

 下に給気口の穴を残し、天面に排気口となる煙突穴を残しておく。

 邪竜ちゃんは泥んこ遊びだ。炉作りをサボって、時々僕に泥を投げてきた。


「ちょっともー! 泥だらけだよぉ」

「ぎゅふふっ」


 今日は日差しが強いから、ちょうど日焼け止めになっていいけど。

 せっかくだから泥の中に入って、身体全体に泥を塗っちゃえ。

 おかしいな。お風呂はお風呂でも、泥風呂に僕は浸かっている。

 そして邪竜ちゃんも、必要ないのに真似して身体を泥まみれにしていた。


「完成! 火を点けるよ!」


 穴から火種を入れて燃やす……はずが、頼んでもいないのに邪竜ちゃんが口から火を吹いた。

 土の炉ごと魔法の炎で燃え上がる。

 か、火力が強すぎない……? 炭になる前に灰になりそうなんだけど……!?

 穴から勢いよく炎が噴出される。

 あ、これやばそう。


「急いで粘土で穴を塞がなきゃ! ああ! 邪竜ちゃんの泥遊びで粘土がもうない!」


 急げ急げ。

 谷を下りて。桶に水を汲んで。土を踏み踏み。捏ねて捏ねて。


「邪竜ちゃん! これで穴を塞いで!」

『ぺたぺたー』


 ものすごい勢いで炎と煙を噴き出す高温の穴でも、邪竜ちゃんならへっちゃらだ。

 邪竜ちゃんは粘土の山を完成させて満足そうだ。

 でも邪竜ちゃんは首を傾げた。


『邪竜山、噴火おわり?』

「噴火……? ううん。これでいいの。噴火させちゃダメだよ」

『むー』


 風の精霊が入ると灰にしちゃうからね。

 だから火の精霊を薪の中に閉じ込めると、長く燃える炭となるんだ。

 上手く出来るといいな。


 数日後。粘土の炉を崩してみたら、中から赤い木炭が出てきた。

 んん? なんか僕の知ってる木炭と違うんだけど……。

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