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13話:邪竜ちゃんと耳長族の村

 森の中に邪竜ちゃんに置いていかれた僕。

 慌てて飛び去る邪竜ちゃんを追いかけようとしたけれど、耳長族の三人が僕の前に立ちはだかった。


「オンナノコ、ヒトリ、キケン」


 男なんだけど! と言おうとしてぐっと堪える。ややこしくなるだけだから。認めたくはないけど、僕は13歳の成人男性としては成長が遅いし、何より巫女装束を着ているので言い逃れできない。姿格好は女の子だ。


「ソレニ、タイヨウ、オチル」


 何のこと? ここは深い森の中で空が見えないけど、まだ太陽は高いはず。

 少し考えて僕は気がついた。この森は邪竜山の東に位置しているので、太陽は邪竜山に隠れて日が落ちるのが早いのだ。


「ううん……どうしよう……」


 悩んでいると、耳長族の人が僕の手を掴んで引っ張った。

 戸惑いながら僕は付いていく。みんなは邪竜山に案内してくれるのかと思っていた。

 一時間ほど歩くと、そこには竹を支柱に灰色のセメントレンガをモルタル塗り固めて立てられた家々が、森の中に現れた。

 ここってもしかして、耳長族の村?

 僕は、好奇の目に晒されながら、村の広場へ連れて行かれた。広場の中央には泉があり、魚がぽちゃんと跳びはねた。

 耳長族三人が巨大な赤熊の首を取り出し掲げると、広場はわっと歓声に沸いた。

 複雑な模様の刺繍の服を着たおじいさんが、杖を突きながら僕に近づいてきた。


「グルドルゥガミゴガヌゥアンシニコゴヌオンヌゥ」


 えっと……。今まで以上に訛りすぎていて、何を言っているか全くわからなかった。

 そして耳長族の方々が、僕には聞き取れない言葉で話しだし、僕はぽつんと立ち尽くした。

 どうしたらいいのこれ?

 大人たちは難しい話をしているようで、子どもたちは僕に興味津々なようで。僕のことを取り囲み、耳をぐいぐい引っ張った。


「ミンミチサー」

「ヘンレコー」

「ヌバセー」


 やめて! 耳ちぎれるから!

 僕は子どもたちを引き剥がして、ぽいぽいと地面に転がした。

 すると何が楽しいのか、転がしても転がしても両手を挙げてせがんで来た。

 誰か助けて!

 耳長族のおじいさんがコンと杖を叩くと、子どもたちは蜘蛛の子のように逃げ去った。そして木の陰に隠れてちらりと顔を覗かせている。

 そして耳長族のおじいさん、おそらく族長さんは、手を叩きながら僕の側にやってきた。


「ヌムルァバダスゥケルェカルスァモルゥス。グルドルゥカコイー」

「はぁ……」


 わからん!

 村の言葉が得意で僕を会話してくれていた耳長族のお兄さんに、助けを求めて視線を向けた。

 お兄さんはふるふると首を横に振った。わからんのかい!

 代わりに、細い体型の多い耳長族にしてはちょっと肥えたおばさんが、族長さんと同じ用に手を叩きながら訳してくれた。


「ムラァヲ、タスケテクレテ、アルガトネェ。グオドラグゥ、カッコイー」

「グオドラグゥ、カッコイー」

「カッコイー」


 え、なにそれ。

 感謝されているのはわかった。だけど、グオドラグゥって邪竜ちゃんのことだよね?

 カッコイーって「かっこいい」の意味だよね?

 隠れていた子どもたちもその様子を見て真似して、ぴょんぴょこ跳ねながら手を叩き「カッコイー! カッコイー!」とはしゃぎだした。

 ええ……。

 そして僕は「村に泊まって行きなさい」と言われた。

 この様子だと「帰ります」とは言えないんだけど。だけど邪竜ちゃんはきっとねぐらで赤熊の身体を咥えて僕を待ってるし、その隣には震えるように横になる耳長族の子もいるんだけど。


「グルァアアアオッ!」


 突然上空から身も震える恐怖を感じる叫びが聞こえた。

 耳長族の人たちはひっくり返って三回転した。

 僕も尻もちを付いて上空を見ると、予想通りの黒い影が飛んでいた。

 さらにそこから何かが降ってきたと思ったら、それは泉にどばあんと落ちて、溢れた水から魚がぴちぴちと広場を跳ね回った。

 そして泉は赤く染まっていく。落とされたそれは赤熊の身体であった。


『おにきゅやいてー』


 焼いてと言われましてもー!?

 邪竜ちゃんがばさりばさりと広場に降り立ち、その背中には泣きながらしがみつく耳長族の子がいた。

 邪竜ちゃんが広場にごろんと横たわると、子もごろんと地面に転がった。

 みんなが恐怖で震える中、その子に駆け寄って助けたのはきっと母親だろう。

 母親の他に、いち早く行動を起こした者がいた。耳長族のお兄さんだ。

 耳長族のお兄さんは手を叩き、「カッコイー!」と叫んだ。

 唖然としていた他の耳長族の方々も、手を叩いて「カッコイー」と邪竜ちゃんを褒め称え始めた。

 なんだこれ。


『かっこいい? かっこいい!』


 邪竜ちゃんが喜んでるからいいけれど、きっと間違いなく勘違いされてるよねこれ。

 手を叩く行為が礼拝。「かっこいい」が賛美と思われている気がする!

 まあいいか。


「えっと、ぐおどらぐぅは、赤熊を焼いて食べたいと、言っています」

「アガグマ、ヤイテ、タベル? ワカッタ。サバク。マツリ、スル」

「祭りはしなくてもいいですけど……」


 また邪竜ちゃんが堕竜ちゃんになっちゃう。

 耳長族の方々が大急ぎで赤熊の解体を始めた。邪竜ちゃんが鼻で押したりしてちょっかいをかけて危ない。

 僕は邪竜ちゃんを解体作業から離して、大人しく待っててとお願いすると、ふすーと不満そうに鼻息を吹きかけてきた。

 そんな邪竜ちゃんの周りに、恐れ知らずの子どもたちがきゃっきゃと集まり背中に上り始める。

 邪竜ちゃんは不機嫌そうに尻尾を振って追い払うも、子どもたちは諦めずにしがみつく。

 そんな僕と邪竜ちゃんの前にはおばさんたちがやってきた。手には籠を持ち、その中には茶色いざらざらが付いた揚げパンが入っていた。


「あまぁい! これ砂糖じゃない!?」

「んあんあー!」


 邪竜ちゃんも喜びで身体をくねくねさせた。子どもたちも真似してくねくねした。

 耳長族のお祭りで食べるどーなつだと言う。

 砂糖なんてそんな高いものをと恐る恐る聞いて見たら、耳長族では砂糖を作って売っているそうだ。

 僕の村でも秋には果物と砂糖をいっぱい使ってジャムを作るけど、耳長族と交換していたんだね。

 邪竜ちゃんがどーなつをおかわりしていたけれど、お肉のことはすっかり忘れていそうだ。

 子どもたちも、足を怪我した子も一緒に、邪竜ちゃんに寄りかかってどーなつを食べた。

 耳長族の広場に黄色い不思議な篝火が焚かれ、笛の音が流れ始める。

 邪竜ちゃんの周りを、子どもたちが跳ねながら踊り始めた。足を怪我した子はじっとしてたけど、その顔は楽しそうに輝いていた。

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