蒼の地竜と天竜の娘
「おや。二人共よく来たね」
「こんにちは。アクリア殿下、ソシエル様」
二人の休みが重なった休日。アークさんと一緒に訪れたのはアクリア殿下の私室がある離宮です。侍従の方が扉を開けるとさっそくアクリア殿下が出迎えてくださいました。
「あら、ミナミさん。いらっしゃい。待ってたわ」
するとその後ろから赤ん坊を抱いたソシエル様が顔を出します。
「お邪魔しております。アマリオン様もお元気そうですね」
「ふふっ。やっと眠った所なのよ。さ、こちらへどうぞ」
にっこりと微笑むソシエル様について私はテラスへと移動します。まだまだ春が来るのは先ですが、今日はお天気がいいからガラス張りのテラス席でお茶をするのも素敵です。
「ミナ……」
「こら、アーク。お前はこっち」
「…………」
「そんな顔するなよ。気持ちは分かるが、俺はソシエルにお前の相手をするよう言われてるんだ」
「…………」
「だからそんな顔するなって。たまには女同士ゆっくり話がしたいらしい。俺だってせっかくの休みなんだから一日中ソシエルと居たいんだぞ。だけど頼み込まれたから仕方なくだな……」
「…………」
「お前、……なんか変わったな」
「……申し訳ございません」
「謝るな。いい意味で、だ」
席に着くと早速香りの良い紅茶が運ばれてきます。けれど用意されたのは二人分だけ。不思議に思って部屋を見れば、アークさん達はどうやら暖炉前のソファで話をしているようです。
「素敵ね、その腕輪」
「……はい。ありがとうございます」
ソシエル様が褒めてくださったのは私の左手首を飾っている細身の腕輪の事。これは婚約や婚姻の証に贈られるもので、透かしの波模様が入っています。
蒼竜は海を愛する一族。だから蒼の国では愛する相手に渡す腕輪に波をモチーフにした模様が刻まれるそうです。勿論ご結婚しているソシエル様もお持ちです。竜化する方は腕輪に自身の鱗を使って装飾をするので、彼女の腕輪に入った瑠璃色の波模様はアクリア殿下の鱗を使ったもの。ですが、護国の民は竜化しない方が圧倒的に多いですから。そういった方々は自身の目の色に近い石を使います。ですから、私の銀の腕輪にはアークさんの瞳と同じ空色の飾り石が埋め込まれているのです。
「昨日陛下とウェミル様にご面会したんですって?」
「えぇ。緊張しました」
「ふふっ。お二人とも喜んでくださってでしょう?」
「はい。とても……」
そうなのです。私は昨日アークさんに連れてられて、アズヴァイ陛下とウェミル王妃に直接ご挨拶をしました。勿論アークさんの婚約者として。
私はあくまで一般人ですから。アークさんがいくら望んでくださったとしても反対される可能性があると思っていました。だから愛人でも構わないと。
けれどそれは杞憂に終わりました。竜は何よりも番を大切にするもの。大切な息子であるアークさんが選んだ相手ならば、自分達も嬉しいと仰ってくださったのです。それは今まで私が知らなかった親子の絆であり、愛情でした。こんな私を家族の一人として向かえることをなんの躊躇もなく許してくださったのです。
その時のことを思い出すと、思わず瞼の裏が熱くなります。
「私、こんなに幸せでいいのでしょうか……」
「当然だろう」
優しい声と共に私を包んだのは温かい腕。振り向かなくても分かります。思わず涙ぐんでしまった私を後ろから抱きしめてくれたのは、アークさんでした。
「俺はミナミを幸せにすると陛下の御前で誓ったのだから」
「……はい」
いつの間にか目の前に座っていた筈のソシエル様の姿がありません。温かい陽の当たるテラスに私とアークさんの二人きり。
一人では得られない幸せを貴方はすでに沢山与えてくださいました。私はもう、十分なくらい幸せなのですよ。だから今度は私の番です。
アークさん。少しずつになってしまうかもしれないけれど、私はこの世界で、貴方の隣で幸せのお返しをしていきますから。だから、ずっとずっと私を離さないでいてくださいね。
END
最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございます。
これにて『泣き虫竜と保健の先生』はおしまいです。
アークの元に残る事を決意した美波。彼女の選択が他国の皆へどう影響するのか……(良かったね、アークさん)
次話は勿論、再び白の国へ舞台が移ります。それぞれの物語のヒロイン達が集ってワチャワチャするお話です(笑)
ご興味のある方は連載開始までしばらくお待ちくださいませ。
それではまた。
2013/4/19 橘。




