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報告と誓い

 

 午前の訓練が終わり、呼び出しを受けた俺は執務室のドアを叩いた。

 侍従が開いた扉をくぐれば、そこには妙に機嫌の良い顔をした兄上が座っている。勧められて応接室のソファに腰を下ろすと、向かいに座った兄上が俺の顔をまじまじと見た。


「シェルベ先生から報告を受けたよ。今日の訓練は随分と張り切ったそうじゃないか」

「……ここの所、部下達の気が緩んでいたようなので」

「くくくっ。全く、騎士達には不運な事だ」


 これだけの楽しそうにしているのだから、シェルベ先生から受けた“報告”とやらは訓練の事だけではないのだろう。


 俺達が幼い頃から世話になっているせいか、または単に気が合うのか。シェルベ先生と兄上はやけに仲が良い。俺が王位継承権を放棄して騎士団に入団してからは当然父や母、兄上とも顔を合わせる機会が減った。それ以来、兄上は俺の事をシェルベ先生から色々聞き出している様だ。


「それで? これはお前なりの決意の現われだと思っていいのかな?」


 やはり全てご存知なのだろう。俺の心境の変化に気づいていたようだ。俺は真っ直ぐに兄上を見返して頷いた。


「……。相違ございません」

「そうか。父上達にはいつ?」

「明日にでも」


 そう答えれば、口角を上げて兄上が息を吐く。


「それはいい。ソシエルも喜ぶよ」

「……そう仰って頂けるのなら、本望です」


 己の判断が間違っていないと、竜の血の薄い彼女を迎える事に賛同してくれているのだと、兄の短い言葉から伝わってくる。国のために存在すべき王族ながら、今まで沢山の我侭を兄は許してくれた。いくら感謝してもしきれない。


「私達は家族なんだ。今まで一人苦しんでいたお前が心より求めた幸福を手に入れたのなら、これより嬉しいことはない」

「兄上……」

「今まで何も力になってやれなくてすまなかったな」


 そんな事は無い。周囲が俺の存在を否定する中で、俺の選択を非難する中で、家族だけは味方だった。いつだって俺を受けて入れてくれた。


「いいえ! 決してそんな事は……」

「だが、お前の孤独を救えなかった」

「そんなことはありません。どれだけ周囲が俺を嘲ろうと、父も母も、そして兄上も俺を厭う事はしなかった。竜化できない俺を家族として受け入れてくれた。そのことに……どれだけ救われてきたか。ずっと感謝しておりました」

「アーク……」


 その事への感謝を今まで言葉にすることはなかった。恩義は忠実に仕えることで返していこうと剣に誓っていたから。けれどこうして口に出さなければ相手には伝わらない。そう実感した今、己でも信じられないくらいスラスラと感謝の言葉が口から出ていた。

 兄上が穏やかな顔で微笑む。もっと早く言葉にすれば良かった。父と母にも伝えに行こう。俺が俺である故の幸せを。彼らの家族である事の幸せを。


「アーク」

「はい」

「彼女と、幸せになれよ」

「……はい」


 あぁ。ミナミ。今すぐにでも君に伝えたい。

 凍りついた涙を溶かす、この胸に溢れるほどの温かな感情を

 

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