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やり過ぎはいけないのです

 わんさかなんて大袈裟な比喩表現に過ぎない。さっきまでの私は思っていました。

 けれど……


「先生……」

「ん? どうしたね」

「あの、今日は訓練、でしたよね?」


 それなのに、医務室がこれほどまでに大盛況なのは何故でしょう? 私の戸惑いを察したシェルベ先生は目の前の惨状を見渡して苦笑いしました。


「なかなか派手にやっているようだね」

「……そのようですね」


 私が驚くのも無理は無いと思います。だって、本当に先生の言葉通り怪我をした騎士さん達がわんさか医務室に押し寄せてきたのですから。

 患者の数だけで言えば冬節祭の事故の時よりも遥かに多いです。ボロボロの騎士さん達で視界が埋まる光景は、さながら大戦から帰ってきた戦士達のよう。

 ですが勿論訓練ですからそれ程酷い怪我をした方はいません。ほとんどが打ち身・打撲。訓練用の剣は刃が潰されているそうなので切り傷や酷い出血するほどの怪我を負った方もいませんね。けれど気を失った騎士さんで既にベッドが満床なのは、どうにもやり過ぎな気がしてならないのですが……。

 国を守る騎士さんというのは随分と過酷な訓練に耐えなければならないようです。


 ベッドに横たわっている騎士さんの腫れた右腕に包帯を巻いていると、彼が苦しそうに声を漏らしました。


「うっ…た……」

「大丈夫ですか?」


 何かを言おうとしているようです。どこか痛むのかと彼の口元に耳を寄せれば、聞こえてきたのはうめき声。


「た、隊長……、許してくださ……」

「…………」


 パタリと彼はベッドに沈み、そしてそのまま気を失ってしまいました。


 ……アークさん。一体彼に何をしたのですか。あら、よく見ればこの方見覚えがあるような……。あぁ、そうです。冬節祭中に差し入れをくださった方です。後で目を覚ましたら改めてあの時のお礼を言わなくてはいけませんね。

 彼の処置を終えた私はまた新たに医務室に来た方を見つけました。足を引きずっているようです。捻挫でしょうか。


「どうしました?」

「あ、足を捻っちまって……」

「そうですか。こちらの椅子にかけてください」


 彼の体を支えようと腕に触れれば、何故かビクッとされてしまいました。


「……あの?」

「あぁ、すいません。一人で歩けますから!!」

「それは失礼しました。こちらへどうぞ」


 やけに恐縮されてしまいました。治療が終わると彼は何度も私に頭を下げてそそくさと医務室を出て行きます。まだ顔色が悪いようですが大丈夫でしょうか? そう言えば他の騎士さん達も似たような態度でしたねぇ。蒼の国の騎士さん達は随分腰の低い方が多いようです。


 その後も訓練で負傷した騎士さん達が次々に顔を出しました。これでは狭い医務室の中を走り回る中で、ついシェルベ先生が「アーク、やり過ぎだろ……」と呟いてしまうのも致し方ないと思うのです。

 

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