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人は見かけによらないみたいです

「では、ナキアス殿下とナルヴィ殿下は?」

「あのバ……、いえ、お二人はね。まぁなんと言うか、歳の割りに中身は子供なのよね。秋節祭の時黒の王城を訪問した第三王子がフィアンセに夢中だと知って、秋節祭の後わざわざ彼女の顔を見に翠の王城を訪問したんですって。表向きは婚約のお祝いだったらしいけど、実際は散々第三王子をからかって帰って来たらしいわ」

「まぁ……」


 あの時見かけた神秘的な黒竜のお二人がそんないたずら好きだなんて、人は(竜は?)見かけによらないのですね。


「当然協力なんてしてもらえる訳無いじゃない? それで仕方なく、冬節祭を待って蒼の国訪問時にこの国の王族に協力してもらえるようお願いしてもらったの。そうしたら、予想通り貴方がこの国に来ていたって訳」

「そうでしたか……」


 成るほど。私が知らなかった今までの流れが掴めました。しかも私以外にも日本の方がいらっしゃる事だけでも驚きなのに、これからまた新たに現れるかもしれないなんて更にびっくりです。それに千紘さんが仰っていた『必然性』も気になります。もし本当にこの現象が必然ならば、理由が存在する筈ですから。


「ねぇ、美波ちゃん」

「はい」

「一つ訊いてもいい?」

「どうぞ」


 するとそれまでの表情を改め、千紘さんは再び真剣な眼差しを向けてきます。


「美波ちゃんはこれからどうするの?」

「…………」


 自然と私の目は千紘さんから離れて今アークさんがいるであろう方角へ。例え本人に要らないと思われていたって、私の心はそこにあるのです。


「私は、ここで生きていくつもりです」

「そう……。それは、アーク騎士団長がいるから?」

「……はい。そうです」


 お二人を出迎えた私の様子を見て、千紘さんは初めからアークさんを慕う私の想いに気づいていたのでしょう。迷い無く答える私に、ほんの少しだけ千紘さんは痛みをこらえるような表情をしました。けれど、私はその理由を問うことが出来ませんでした。それはあまりに一瞬で、見間違えかと思うほどだったから。


「そう、分かった。最初に言った通り、私と燈里ちゃんは日本に帰る方法を探しているけれど、美波ちゃんの選択にとやかく言うつもりはないわ。どちらが正しくてどちらが間違っているかなんて答えがある問題ではないから」

「はい……」

「まぁ、何が言いたいかって言うと、どんな選択をしたとしても私達は仲間だってこと」

「え?」

「改めて、よろしくね、美波ちゃん」

「……はい」


 差し出された綺麗な手に私も手を重ねて互いに握手。私の目には思わず涙が滲みました。


「勿論協力もしてもらうわよ」

「はい。任せてください」

「あら、言ったわね。頼りにしてるわ。早速だけど、新節祭の日に白の国に行けるかしら?」

「白の国に?」

「そう。私の読み通りなら、次は白の国にまた新たな日本人が現れる筈。だから一緒に探してもらいたいの。日本人を見慣れた私達の方が見つけるのは早いと思うのよ。あ、勿論燈里ちゃんも一緒よ」

「分かりました。アークさんに相談します。燈里ちゃんにも会いたいですし」

「ふふっ。そうね。燈里ちゃんは元気な子だからきっと楽しいわ。次は白の国で女子会しましょうね」

「はい」


 幼い頃から上流階級の社会で過ごし、普通の友人同士のやり取りを経験したことの無い私にとって、それはとても素敵な提案なのです。


 


【境千紘side】



(ここで生きていく、か……)


 馬車に揺られ、目線の先には雪景色。けれど頭の中には迷い無くこの世界を選んだ彼女の微笑が浮かんでいた。カールした蜂蜜色の髪、可愛らしい声に柔らかい笑み。ふわふわとした印象の、私とはまるで違う女性。私とは違う選択をした女性。


 彼女の答えを聞いた時、一瞬胸に痛みを感じたのは、同じ選択肢を自分も持っていることに気づいているから。


 やはりあの二人を連れてこなくて正解だった。彼女の選択を聞いたら、きっと彼らは私に同じ答えを求めるでしょう。けれど私はそれを選ばない。私は日本で、東京で二十九年間生きてきた。その間に大切なものが沢山出来てしまった。今更それを捨てるなんて事は出来ないの。全てを捨てて新たな世界で生きていくような冒険が出来るほど若くは無いのだから。


 ちくりちくりと胸が痛みを訴える。それには気づかないフリをして白銀の眩しさに目を細めた。

  

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