推理のお時間です
「共通点?」
「えぇ」
すると千紘さんは一つ一つ思い出しながら指を折っていきます。
「貴方と燈里ちゃんは自宅で、私は会社帰りの電車の中で。場所は違えど皆眠っていた事。そしてこの世界に来た日が季節祭の初日だった事」
「お二人もなんですか?」
「えぇ。燈里ちゃんは夏節祭の日紅の国で、私は秋節祭の日翠の国にいたの」
「そんな偶然……」
「偶然だと思う?」
それまでの笑みを消した真剣な目に、私は首を横に振りました。
「三人立て続けとなると、一概に偶然だとは……」
「えぇ。私もそう思うわ。二回なら偶然、三回は必然ってね。それに此処に来た時不自然だとは思わなかった?」
「え?」
「地球とは全く異なる世界なのに、最初から言葉が通じたでしょう?」
どうして今まで気づかなかったのでしょう。色んな事があり過ぎて、そんな簡単なことに気づきもしませんでした。
「えぇ、……そう言われれば、確かに不自然ですね」
「全く違う世界なら言葉は違って当たり前。現にここで使われている文字は日本語でも英語でもない。それでも私達は言葉も文字も“分かる”」
私は頷き返します。
「はい。私もそうでした。今騎士団専属の医務室でお手伝いをしているんです。薬瓶に書かれたラベルは筆記体に似た流れるような知らない文字でしたが、言葉の意味は理解できました」
不意に低くなった千紘さんの声が二人だけのリビングに響きます。
「出来すぎだと思わない?」
「……出来すぎ、ですか」
「知らない世界なのに言葉に不自由しないなんて、私達にとって都合が良すぎる」
「やはり偶然ではなく、必然だと?」
「それも自然現象ではあり得ない、誰かの意思が介在していなければこんな風にはならないと思うの」
「誰かの、意思……」
一体誰の? そう問うた所で千紘さんから答えは返ってこないでしょう。彼女はその答えそのものを探しているのですから。
「次は新節祭、か」
ふっと漏らした千紘さんの呟きに、私は顔を上げました。
「新節祭でまた日本の方が此処に?」
「夏・秋・冬と続いたのだから、その可能性は高いと思うわ」
「では、春は? もし千紘さんの推測通りだとしたら、春節祭の時にも誰か来ているのではないですか?」
「あぁ。春ねぇ……」
何故か千紘さんははぁ、と長い溜息をつきました。その表情から幾分疲れが見えるのは、多分気のせいではないと思います。
「何かあったのですか?」
「聞いてくれる? 私も同じ事考えたからさぁ、冬節祭の前に調べてみようと思ったのよ。燈里ちゃんは夏節祭の日に主催の紅の国に居たって言うから、とりあえずは春節祭主催の翠の国から探そうってね。でも翠の国の協力が得られなくてさぁ」
「まぁ、どうしてですか?」
「紅と黒には今私達に協力してくれている王族の方がいてね。紅はレビエント殿下、黒はナキアス・ナルヴィ両殿下なんだけど。翠の国の第三王子には今年婚約したばっかりのフィアンセがいるんだって。レビエント殿下はそのフィアンセの手の甲にキスしたことがあるらしくて、それからすっかり第三王子に嫌われているらしいの」
要は嫉妬していらっしゃるんですね。手の甲のキスならあくまで挨拶で他意は無いのでしょうが、翠の国の第三王子は随分フィアンセに夢中のようです。




