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お話をしましょう

 

 蒼の国での四日目です。そして……アークさんの腕の中で目覚める二度目の朝です。


「おはようございます」

「あぁ、おはよう。ミナミ」


 体を起こそうと思った瞬間、さり気なく頬を撫でられてしまいました。アークさん……、なんだかキャラが変わっていませんか?

 恥ずかしくなってシーツに顔を埋めれば、今度は大きな手が飛び出た頭を撫でていきます。こういうの、甘やかされている感じがして、ちょっとくすぐったいのです。


「ミナミ」

「……はい」


 赤くなっている頬を隠すようにシーツから目だけを出せば、アークさんの目元が緩みました。どうやら笑われてしまったようです。

 

「陽が落ちる前に帰ってくる。悪いが、今日は一日屋敷にいてくれ」

「分かりました」


 昨日までの私なら、一日このお屋敷に居るのは嫌だと思ったかも知れません。けれど今は違います。ここでアークさんのお帰りを待つのなら、私がお出迎えする事が出来るのなら、それも良いかと思うのです。


 ようやくベッドから出た私は、客室へと戻ります。そこで厚手のワンピースに着替え、キッチンへ。着替えはシェルベ先生の奥さんのお古を何着が譲っていただきました。丈は少々長いですが、着られないサイズではありません。きっと先生の奥様は足が長い方なのでしょうね。

 

 二人で朝食を食べた後はアークさんをお見送り。いってらっしゃいませ、と笑顔で言ったら……何故かここでも頭を撫でてくださいました。

 もしかして私、小さな子供と同じ扱いなのでしょうか? 一見強面のアークさんですが、小さな子には優しいのかもしれません。


 そして夕方。少しずつお屋敷を掃除していたら、約束通りアークさんは夕暮れ時に帰ってきました。お出迎えして、お茶を飲んで、また二人で暖炉の前に座って。そしてアークさんは言いました。


「話をしようか」

「はい」


 主語が無くとも何を仰りたいのか分かっています。だから私はただ頷きました。そして話し始めます。私自身の事について。


「アークさん。私は、……吾妻美波はこの世界の人間ではありません」


 いつも綺麗な空色が、一瞬何かに怯えるような悲しみに揺れた気がしました。あぁ、それでも私は言葉を続けなければいけません。これは約束、だから。


「私は、日本という国に住んでいました。そこは此処とは全く違う場所です。まず、竜という生き物は存在していません。青い髪や緑色の髪をした人もいません。護国という国は何処にも無い場所なのです」

「……では何故此処に居る?」

「それは私にも分かりません。理由もその方法も。最初に言ったように、私は日本にある自宅で眠っていた筈でした。けれど目が覚めたら……、アークさんの寝室に」

「そう、か……」


 力の無いアークさんの声。私の告白を彼がどう捉えたかは分かりません。嘘を言っているとは思っていないでしょうが、簡単に信じる事は出来ないのでしょう。その証拠にアークさんは私と目を合わせようとしません。その事に気づいた途端、チリッと胸の奥が痛みました。


(私、アークさんを困らせてる……?)


 故郷が別の世界なら協力してもらってもそう簡単に帰れる筈がありません。もし厄介なものを預かってしまったと思われていたら? 面倒事はごめんだと思われていたら?


――アークさんが私を嫌いになってしまったとしたら?


「ミナミ……?」


 胸の痛みが急に鋭くなって、私を呼ぶアークさんの声に応えることが出来ませんでした。

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