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笑われてしまいました

 

 蒼の国で過ごす三日目です。今日も私は医務室に預けられています。

 今日で冬節祭も最終日。お祭を堪能できないのは残念ですが、無一文の居候の身。我侭は言えません。けれどそんな私の心情を察してくださったのか、シェルベ先生が素敵な提案をしてくださいました。


「折角の冬節祭に引きこもりっぱなしじゃつまらないだろう。今夜は王城で夜会が開かれるんだ。こんな老体で良ければ一緒に覗きに行ってみるかい?」

「えっ! 私が行っても大丈夫なのですか?」

「アークは夜会の警備に付きっきりだからね。今日はお嬢さんを女性騎士に自宅まで送らせるようあいつから頼まれているが。なあに、少しばかり帰りが遅くなるくらい構わんさ」

「ありがとうございます! 是非ご一緒したいです!」

「あはははっ。そりゃ良かった。ちらりと覗くぐらいしか出来んだろうが、この国に来た良い思い出になるだろう」

「……そうですね。お気遣いありがとうございます」


 そうでした。冬節祭の間はアークさんのお屋敷に置いてもらっていますが、それが終われば自分で落ち着き先を探さなくてはなりません。シェルベ先生も私が故郷へ帰るものと思っているのでしょう。それが当然の筈なのに、こんなに寂しい思いがするのは何故なのでしょうね。


「おお、そうだ。財務部から呼び出されているのを忘れておった。しばし席を外すが、留守番を頼んでもいいかね?」

「はい。勿論です」

「もし急患が出たら、近くに居る騎士に伝言すればいいからな。では行ってくる」

「はい。行ってらっしゃいませ」


 書類を片手に慌しく先生が出て行った後は医務室がやけに静かに感じます。パチパチと火が爆ぜる音がなんだか眠気を誘いますね。ですが私はお留守番です。眠ってしまわないように気をつけないと。

 新しいお茶を淹れようと席を立つと、コンコンッと控えめなノックの音。もしかして怪我人でしょうか? 返事をしてドアを開ければ、今日も騎士の方が立っていました。


「先生に御用ですか?」

「いえ、あの、これを……」

「え?」


 差し出されたのはコロコロした丸い揚げ菓子。粒の大きな砂糖がまぶしてあってとても美味しそうです。どうやらこれも差し入れのようですが、受け取ったらまたアークさんに叱られてしまいますね。一つ食べてみたいのですが、涙を飲んで諦めましょう。


「すいません。これはお持ち帰りください」

「えっ、でも……」

「アークさんに受け取らないよう言いつけられてまして」

「騎士団長に……?」


 アークさんから言われた通りに断ると、騎士の方はそう呟いて引き返していきました。顔色が良くなかったようですが、大丈夫でしょうか? 外は寒いですし、お風邪を召してないといいのですが。


 シェルベ先生が留守中にそんなやり取りが何度かあって、戻ってきた先生にお話したら、何故か大爆笑されてしまいました。私、また何か間違えてしまったのでしょうか? もう私もいい歳ですし、お行儀うんぬんで叱られるのは結構堪えるのですよ。

 

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