第42話 ヴィクトリアの戦い 3/4
「失態ですわ……」
肉は三匹のオオカミとなり、さっきの親子を押さえつけていた。
「くくく……ヴィクトリア、動かないでくれよ。私の許可なく動いたら、あの三人を殺す」
「分かり……ましたわ」
「へえ……素直だな。じゃあ本当に動くなよ。攻撃を防いでもいけない」
ロバートは握り拳大の小さなオオカミを作って、弾丸のように発射した。ヴィクトリアは防御障壁で弾きそうになり、その反射を必死に抑えて、直撃を受けた。
腹に突き刺さる。肉を破って、内臓に噛みつかれた。
「ぐっ!」
蹲ってしまいたい。
だが動くなと言われている。
「おいおい……君は、馬鹿なのか!? あの三人と面識があるわけじゃないんだろう? 血縁者でもないだろう!? 見ず知らずの人間を人質にされて、なぜ従うんだ!? 内臓を食い破られながら不動を保つなんて正気じゃない!」
「動くなと言ったのはあなたですが……?」
「それに従うのが正気じゃないと言ってるんだよ。正直、ヤケクソだったんだ。通用するとは思っていなかった。なのに……いや、少しだけ予感はあったな。君、吸血鬼を殺すのが好きで殺してるんじゃないんだな? 人間を守りたくて殺してるんだな!? なんて愚かなんだ!」
ロバートの興奮に呼応するように、ヴィクトリアの腹でオオカミが激しく暴れる。
「か――はっ!」
「ああ、いいよ、その表情……悲鳴はもっと大きな声を出してくれると嬉しい。惜しいな、私のこの手で君を分解してあげたい。この能力の欠点はね、自分で感触を味わえないところなんだ。けれど、いくら人質がいても、君に近づくのは怖いな。このまま削るとしよう。いかに強大な吸血鬼でも、再生限界はある。君の言葉だ」
そうだ。
これを続ければ、ヴィクトリアはいずれ死ぬ。
五分や十分なら耐えられる。しかし何時間も内側から臓器を食われ続けたら死ぬ。
こんな雑魚に殺されるなんて。いや、この能力は厄介だ。雑魚ではなかったのだ。それでも、まだ勝ち目はある。簡単だ。人質を無視すればいいだけ。
犠牲者は出したくない。けれど、自分の命がかかっているのだ。
見ず知らずの三人。見捨てたところで、誰も責めたりしないだろう。
夜戒機関の同志たちも。ロゼットも、アキトも、ミズハも、ミスティも。
仕方がないと言ってくれるはず。
なのに体が動かない。
「くははは! おいおい、もう再生が遅くなってきたんじゃないか? さて、あとどのくらい保つか楽し――」
「煉獄より来たれ、罪――溢れ出せ、怠惰。そして憤怒」
ロバートの声が止まった。
と同時に、空から落ちてきたミスティの蹴りがロバートの脳天に突き刺さった。頭蓋骨を砕き、そのまま背骨や肋骨も粉砕していく。
ミスティの足が地面についたとき、ロバートは木っ端微塵になっていた。
飛び散った破片は怠惰の効果範囲外まで飛び、そこで集合し、再生する。再生するが、しかし。
「はあ、はあ……なんだ、君は! いきなり乱入してきて……ヴィクトリアの仲間か!? 君も動くな! あの親子が人質なんだ!」
オオカミの維持に肉体の大部分を使い、そして幾度も再生を行った結果、ロバートは傍目にハッキリ分かるほど疲弊していた。
もう何度か同じことをすれば再生限界が来るだろう。
そして人質。
ヴィクトリアは人質がいたら動けない。だがミスティがそうとは限らない。ロバート自身が言っていたことだ。見ず知らずを人質にされて従うなんて正気ではない、と。
乱入者が現われた時点で、ロバートは詰んでいるのだ。
ましてや、その人質が失われたとあっては尚更。




