あなたは運命の人4
「……で?」
「え?」
今日は久しぶりにミュエルと2人きりのお茶会。ミュエルのおうちにお邪魔して魔力画を観させて貰いながら、色々とお喋りをしていたのだけれど。
「その後は?」
「その後って……一昨日のことだし、何もないわ」
「そうじゃなくて! リュエットがヴィルレリクさまとラブラブなのはわかったけど、具体的な解決策は? トートデリア家に文句を言うとか、先生に相談しておくとか、私たちで協力して会わないようにしてもいいし、移動のときだけ変装するとか」
カツラを被り、友達に囲われて移動する光景を想像すると、見破られそうだけれどちょっと楽しそうと思ってしまった。
ミュエルは頭の回転が速くフットワークが軽い。指を折りながら案を出している彼女に「特になにも」と答えると、なんですってと顔を顰められた。
「まだ具体的に何かされたわけでもないし、ヴィルレリクさまのお家との関係もあるから文句を言うほどでもないし……」
「でも、普通あんな風に文句なんて言わないわよ。それにほら、昨日、1階の廊下が濡れてたでしょう! あれもセリーナさまが手を回した可能性はあると思うわ」
「流石にそれは疑いすぎだと思うけれど」
「忘れたの? リュエットが狙われた事件、変なイタズラみたいなのも混ざってたでしょ? 時期的にもリュエットがヴィルレリクさまと仲良くし始めた頃のことだし、セリーナさまがやってたって不自然じゃないわ」
すっかり忘れてた、というとまたミュエルが可愛い顔を顰めそうなので、私は黙って頷いた。
聖画を狙うために、魔術で私を脅そうとした出来事がいくつか起こった。石が投げ入れられてガラスが割れたり、魔力画を割いて机の中に入れたりといった聖画に関係ありそうな嫌がらせだ。そしてそれとは別に、植木鉢を落とされたり廊下を水浸しにされたりといったことも同時に起きていた。手間はかかるけれど人力でできそうな比較的小さな嫌がらせなので、魔力画を燃やした犯人とは別なのではないか、と話していたのだ。
のちに事件が大きくなってしまったし、解決した後の捜査についてはほとんど関わっていないので事実は不明だったけれど、ミュエルはそのときの比較的小さな嫌がらせについてもちゃんと覚えていたようだ。
「魔力画に危害を加えたりしないなら廊下を濡らされるくらい特に気にならないけれど、そうだとしたらちょっと困るかもしれないわね」
「魔力画第一で考えるところがリュエットらしいけれど、嫌がらせされてるんだからもうちょっと困ってもいいと思うわ、私」
魔力画を燃やすという非人道的な事件が起こっていたからかいまいちインパクトは弱い。廊下が濡れていても遠回りすればいいだけだけれど、当たらない位置でも植木鉢を落とされるのは危険だ。
「……お守りの魔力画がまた壊れちゃうのは困るわね。危ないこともなくなったから、毎日可愛くてお気に入りのものばかりを持ち歩いてるもの。でも魔力画でお気に入りじゃないものなんてないし……。今度また何か起きたら、ウィルさまに相談してみるわ」
「問題はそこじゃないのよリュエット。結果的にはそれで正解だと思うけれど」
魔力画は大事だし、それに何かあるなら問題だ。ということを力説したら、ミュエルはハイハイと言いながら小さなバラのパイをサクサクと口に入れていた。いまいち納得してもらえていないけれど、魔力画好きではない人にあまりしつこく熱弁してしまっても、かえって魔力画への興味が失せてしまうことがある。ミュエルが将来的に魔力画を好きになってくれるように、私もほどほどでやめてパイを食べる。ミュエルの家のお菓子は本当に美味しい。
「でも、嫌がらせといっても、学園で調べられるようなひどいことはしないでしょうし、セリーナさまが犯人だったとしてもそのうち止めると思うわ。それで何があったからといって今の状況が変わるわけじゃないもの」
「まあねえ……今の時点だと公爵家相手にあれこれ騒ぐのも難しいし。セリーナさまが社交界にまでこのことを引き摺らない人だといいけれど」
貴族は基本的に争いを避ける。領地を守り繁栄させていくためにも、対立するよりその方がいいからだ。仲違いをしていてお互いに近寄らないという家はあるけれど、諍いになれば他家や国の機関からの介入もありうる。
マドセリア家の一件もあったため、これ以上お父さまに負担をかけるわけにもいかないし、セリーナさまについては気持ちを収めてもらえるように祈ることくらいしかできないのが現状だった。
ふうと2人で溜息を吐いてから、ミュエルはパンと手を打った。
「ま、暗い話は置いといて。リュエット、昨日ヴィルレリクさまと2人でお出かけしたんでしょ? 劇はどうだった?」
「すっごく素敵だったわ! ミュエルも観に行ってほしいくらいなの! ウィルさまもすごくかっこいい服装でね」
「リュエットいつもかっこいいって言ってない?」
やっぱり楽しい話の方が盛り上がる。私とミュエルは、日が傾いてミュエルのお母さまに声を掛けられるまでおしゃべりを楽しんだ。




