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運命を決めるのは誰ですか?8

「リュエット」

「はい」


 私の名前を呼んだヴィルレリクさまは、少しだけ躊躇するように黙った。それから私の方へ向くように座り直す。なんだか改まった様子で、私もそれにならった。


「今から突拍子もないことを話してもいい? もしかしたらリュエットは僕を嫌いになるかもしれないけど」

「えっ」


 急に心臓がいやな風に急ぎ始めて、頭の中で色々なことが思い浮かぶ。突拍子もなくて嫌になりそうなこととは、どんなことだろう。まさかすでに結婚していて、子供もいるだとか、本当は私を好きじゃないけど何かの理由で結婚した方が良さそうだと思ったとかだろうか。

 短い間に嫌な想像が湧いてきたので、私はそれを振り払うためにも「どうぞ」とヴィルレリクさまに促した。


 ヴィルレリクさまは小さく頷いて、それからまた呼吸みっつぶんほど黙る。躊躇うといよりは、切り出し方に困っているようだ。私は不安でドキドキしながらそれを待つ。


「信じてもらえないかもしれないけれど、……僕は、生まれ変わる前の記憶を持っている」

「えっ? ヴィルレリクさまも?」

「え?」


 私が思わず声を上げてしまったので、ヴィルレリクさまは深刻な顔から一転、きょとんとした顔になった。目を合わせたまま、私とヴィルレリクさまはぱちぱちと瞬きながらお互いを眺める。

 え、今前世の記憶があるって言ったよね。まさか聞き間違いで、私が変に口を挟んだから混乱しているのだろうか。でも、本当にそうだったら、ヴィルレリクさまは私と同じ境遇にいることになる。


「あの、ヴィルレリクさま、もう一度仰っていただけますか? 念のために」

「僕は生まれ変わる前の記憶があるって言ったけど」

「ですよね」

「待って、もしかしてリュエットも持ってる?」


 私と同じように少し混乱したように訊ねるヴィルレリクさまに、私は頷いてみせた。

 前世の記憶があるだなんて、頷くだけだとしても誰かに知らせることが恐ろしく感じた。普通なら呆れられるか、からかっていると怒るか、そうでなければ、変な人だと遠ざけられてしまうかもしれない。


 ヴィルレリクさまもきっとその気持ちを感じていて、それでも私に告げようとした。それは勇気がいることだっただろうなと思い至る。

 私はヴィルレリクさまの手を握り、それから背を伸ばしてヴィルレリクさまの琥珀色の目を見つめた。


「はい」

「そう。そうか」


 ヴィルレリクさまはそう呟いて頷いた。何かを考えているようではあるけれど、私が言ったことを素直に受け入れてくれているように見える。その様子から、ヴィルレリクさまが言ったことも本当なのだということがわかった。


「あの、ヴィルレリクさま。もしよろしければヴィルレリクさまの、記憶についてお聞かせくださいますか?」

「うん。……ウィルでいいよ」

「あ、ごめんなさい、ウィルさま」


 びっくりしたせいで呼び方が戻ってしまっていた。

 私が謝るとヴィルレリクさまは微笑んで、それから少しだけ緊張のほぐれた顔をした。


「覚えているといっても、全てじゃない。大体5歳の頃から、ちょうどこの冬までの13年間くらいかな。その記憶をいくつも持っている」

「え? あの……つまりそれはヴィルレリクさまとしての記憶、ということですか?」

「そう。物心ついた頃に全てを思い出し、それから大体冬の初めに死ぬ。死んでから、また気が付くと小さな体になっていて、過去に戻っている」


 何度も、死んでは思い出すことを繰り返してた。

 その言葉に、私は小さく息を呑んだ。


「し、死んでしまうというのは」

「あの聖画の魔術が発動されると、政変とともに多くの貴族が死ぬ。大体戦いの中で死ぬことになったけれど、たまに飢えたり病気になったり、事故に遭うこともあったかな」

「今は大丈夫なのですか? 何か具合の悪いところは?」

「ないよ。ここまで生きたのは初めて。多分、抜け出せたんだと思う」

「抜け出せた……」

「そう。聖画の魔術が発動されなかったのはこれが初めて」


 ヴィルレリクさまはあまり口調を変えず、淡々と説明している。けれどその言葉からは、その期間の記憶がいくつもあるのだということが感じられた。

 何度も生きて同じ結末を辿るのは、想像しただけでも恐ろしいことだ。その記憶を持ち続けるだけでも辛いことだと思う。なんだか胸が痛くなって、私はヴィルレリクさまの手を抱きしめるように両手で包んだ。






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