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真実はここで見つけるしかないようです9

 マドセリア伯爵夫人が上げたのは、まさに怒りの咆哮というに相応しい叫び声だった。扇子を放り投げ、こちらに襲いかかってくる。その手に尖ったものが見えて、私は咄嗟にマドセリア伯爵夫人を避けた。腕を大振りに動かしたせいで動きが止まった夫人に、同じく体当たりをする。


「リュエット!」


 起き上がり、立ち上がったヴィルレリクさまの後ろに回った。私よりも頑丈に縛られている縄を剣で切ると、ヴィルレリクさまが私の方を向く。


「剣があるのになんで体当たりなんかしたの? 相手も武器持ってるのに」

「この剣、重いので……」


 細い剣で狙うよりも、体当たりした方が体勢を崩しやすい。そういうと、ヴィルレリクさまは珍しく唖然とした表情で絶句していた。

 4年ほど前まで領地でお兄さまと剣術遊びをしていたときに学んだ技術なので、そう的外れなものではないはずだけれど。

 とにかく、自由になったヴィルレリクさまの手に私は先程もらったばかりの魔力画を渡した。一緒にハンカチも。


「ヴィルレリクさま、これを。頬に血が」

「ありがとう。魔力画は多分、リュエットが持ってて構わないけど」

「怪我をしてるじゃないですか! 他に痛いところは?」


 地下牢の穴を通して話していたとき、頭を殴られて倒れたのではないか。そう思ってヴィルレリクさまの後頭部を見上げる私から、ヴィルレリクさまがそっと剣を取り上げる。それからいつもの飄々とした様子でヴィルレリクさまは軽く肩を竦めた。


「ないよ。少なくとも動くのには問題ない」


 ヴィルレリクさまが剣を振る。すると、高い音が鳴ると共にマドセリア伯爵夫人が弾かれたように後ろ向きに転んだ。いつのまにか起き上がって私たちを襲おうとしていたようだ。


「流石に武人と名高いマドセリア。良い剣だね」


 そんな呑気なことを言っている場合じゃない気がする。

 怒りに震える夫人がこちらを睨み上げているし、同じく起き上がったガレイドさまもこちらに近付いてきている。


「ヴィルレリクさま!」

「リュエットは離れてて、危ないから」


 どこにあったのか、剣を奪ったはずのガレイドさまの手にも同じような剣が握られている。痩せて虚ろな目をしているけれど、こちらへ向かう歩みは妙に安定していた。一定の距離までくる、剣を構えながらこちらの出方を伺いつつ距離を詰めてくる。ヴィルレリクさまの実力はわからないけれど、ガレイドさまの動きには少なくとも剣術を長年やっていた様子が見てとれた。


 お互いに距離を測りながら見つめ合う2人を見つめつつ、教会の奥側へと下がっていると、息を荒くしたマドセリア夫人が再びヴィルレリクさまを狙っているのに気付いた。手に持っているのは、金属の長い針のようなものらしい。


 夫人には武術の心得はなさそうだけれど、それでも敵が増えるとヴィルレリクさまが不利になる。地面を蹴って椅子に飛び付き、踏ん張ってそちらへ投げると、ドレスに当たって夫人がもう一度体勢を崩した。あまり重い椅子でなくてよかった。

 同時に笑い声が聞こえてくる。


「リュエット、笑わせないで」

「笑わせてません!!」


 そりゃあ淑女としては失格かもしれないけれど、私はヴィルレリクさまを助けようとしたのに。

 理不尽な気持ちでヴィルレリクさまを睨むと、ガレイドさまがヴィルレリクさまに斬りかかる。剣で受け流しながら位置を変えたヴィルレリクさまはまだ半笑いだったけれど、琥珀色の目はガレイドさまの動きをぴったりと追っていた。

 速い。ガレイドさまもだけれど、ヴィルレリクさまも慌てることなく対処している。


「小娘!! 殺してやる!!!」


 マドセリア伯爵夫人の怒りに満ちた目が私に向けられる。私は走って祭壇の方へ向かった。祭壇の上には布が掛けられ、花瓶や燭台が置かれている。とりあえず花瓶を夫人の方へ投げつけてから、私は燭台を掴み、蝋燭を抜き取った。

 武器としては頼りないけれど、夫人の針よりは長さがある。


 ヴィルレリクさまの戦いを邪魔しないためにも、夫人の動きを止めなければ。

 ヴィルレリクさまを縛っていた縄は切ってしまっているので使えない。私を縛っていた縄は入り口の近くに落ちている。あれを取りに行けば夫人を縛れるけれど、その前に彼女の動きを止めておかなければいけない。

 魔力画も持っているから、怪我を覚悟で近付き、相手をもう一度倒して気絶させられないだろうか。


 祭壇の掛布を使えないかと引っ張って見ると、ごとんと何かが動いた音がした。祭壇の方を見ると、裏に空洞があり、そこに平たいものが重ねて立て掛けてある。


「聖画……」

「殺してやるー!!」


 それに気を取られた瞬間に、マドセリア夫人が私の方へと飛びかかってきた。






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