44 きっとフラグは回避出来た、はず
さて、この状況をどうしたらいいだろうか。
貴族という存在に馴染みがなさすぎて、どうするのが正解なのかわからない。
ただ、屋敷への招待は全力でお断りしたい。
つまり、どうしたら角が立たずに断れるのかが問題なのだ。
「招待だなんて、とんでもないです……あの、本当に私たちはただ通りかかっただけですので」
「ただ通りかかっただけなのに、親身になって助けてくれたではないか。包帯や薬も分けてもらって、お礼もしないというのは心苦しくてね」
しかも、この騎士さんがご長男とか酷いだまし討ちだよっ!
なんで守られるべき公爵家の長男が騎士なんてしてるの! あまりにも気さくに話しかけてくるし、雇われている人かなって思うじゃん~!
泣き言を言っていても仕方ない。これはたぶん、お礼とやらを受け取らなければ引き下がれないというやつだ。
貴族の矜持みたいな? 礼も渡せぬ家なのかと侮られるとか、そういう感じなのかも。
「では、何か旅に役立つものをくださいっ」
「エミルっ!?」
「ふむ、旅に役立つものか。何かあったかな」
ミハイルさんはエミルの言葉を真に受け、使用人たちに話を聞きに行ってしまった。
は、はわわ、どうしてあんなことを急に!?
「屋敷にお呼ばれされたり、お金をいただくよりはいいかと思いまして……」
「そ、それはそうだけど、心臓に悪いよぉ」
「申し訳ありません。ですが、コトリ様が困ってらっしゃるように見えたので……ボクなら子どもの言うことだからと聞いてもらえるかなって」
ヒソヒソと小声で話し合う私とエミル。
さっきは完璧な無邪気な子どもって雰囲気だったのに、今はしょんぼりといつもの自信なさそうなエミルだ。
なんていじらしいんだ。私のために前に出てくれるなんて。
「そっか、考えてくれたんだね。ありがとう、エミル。助かったよ」
「お役に立てましたか!」
「うん。でも無茶はしたらダメだよ。心配になるから」
「コトリ様……はいっ!」
ああ、可愛い。癒される。貴族と話す緊張が和らいだよ。
えへへ、と嬉しそうに照れ笑いするエミルの頭を撫でておいた。さすがはキュア執事、心が回復した。
その後、ミハイルさんは魔よけの鈴という魔道具を渡してくれた。
これを身に着けておくと、道中で魔物に会いにくくなるのだそう。すごい、ゲームとかに出てきそうなアイテムだ。
ただこれ、実はすごく高価なものなのでは……?
鈴の部分が金色に輝いているし、装飾も豪華な気がするんだけど……。
ちらっとエミルに視線を送ると、エミルは一つ小さく頷いてから再び無邪気な子どもの仮面をかぶった。
「すっごく綺麗! おじさん、ありがとう!」
「お、おじさ……エミルっ、お兄さんだよ、この人まだすごく若いよ、たぶん!」
「えー……?」
「は、はは。いいんだよ。子どもからしたら三十近くは十分おじさんなのだろう」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
無邪気すぎてヒヤヒヤするっ! わざと、じゃないよね? さすがにこんなに可愛いエミルがわざとこんなこと言うわけないよね?
私が必死で頭を下げるのを見て、エミルもごめんなさいって落ち込んでいるし。
わ、わざとじゃないなら仕方ない。よしよし、なでなで。
「おじ、お兄さん。これ、本当にもらってもいいの? ボクたち、高価なものはもらえないよ……」
おっ、良い感じに軌道修正してくれている。
エミルの上目遣いからの質問を受けて、ミハイルさんは明るく笑った。
「一般的な魔よけの鈴よりは高価かもしれないが、我々にとっては大したものではないよ。使用人たちにも配る物だ。むしろ、こんなものしか渡せなくて申し訳ないくらいだよ。やはり屋敷で……」
「いえっ、十分ですっ! 本当にありがとうございます! ありがたく使わせていただきますっ」
「ははは! そうしてくれ。旅の安全を祈るよ」
ふー、これでどうにか「貴族のお家にお呼ばれ」イベントは回避出来たかな。
エミルのおかげだよ、本当に助かった!
それにこんなに素敵なアイテムまで貰うことになっちゃって。
正直、魔物の出現が低くなるというのは本当にありがたい。もしかしなくても、私の旅路には必需品だよね、これ。
危険な目に遭いそうだったら執事を召喚、なんて呑気に考えていたけど、こういう便利な道具があるなら事前に用意しておけばよかったな。
お、お高いのかな、やっぱり。けど、一般的なものもあるみたいな口ぶりだったし、次の町ではそういう魔道具のお店とかも見ておこう。ちょっと楽しみが増えたかも。
魔よけの鈴をありがたくリュックに着けていると、ミハイルさんが思い出したように口を開いた。
「ところで、私たちがアースワームに襲われている時、颯爽と現れて助けてくれた者がいるのだが……コトリたちは見たか?」
ぎくっ! このまま忘れてくれないかなー、なんて淡い期待を抱いていたけど……やっぱりそうはいきませんよね。
この人たちからすれば命の恩人なんだもん、そう簡単に忘れるわけもないか。
「い、いえ。誰かが戦っているのは遠目に見えましたが、そのくらいです」
「そうか。あの者にも礼を言いたかったのだが……仕方あるまい。とんでもなく強い者だった」
そうでしょう、そうでしょう、うちのチャズはすごいでしょう。なんて内心で勝手に誇らしく思いつつ、そんなことはとても言えないので曖昧に笑う。
……ないとは思うけど、この人がいる付近でチャズを召喚しないように気をつけよう。
通りすがりに手助けした私たちにさえお礼をしたがるくらいの人だ。チャズと再会したらそれはもう歓待されそう。
チャズだってそういうのは苦手だろうしね! お礼と労いは私のほうからしておきますので!




