第8話 敵将、討ち取ったり
―カール王子陣営の新兵・ネロ(猟師の息子)視点―
ついに、夢にまで見た初陣の時がやってきた。
それも尊敬するカール王子を助けるための戦だ。父共に敵兵に向けて、矢を射る。
矢は敵兵の頭に直撃し、よろけた身体は奈落へと転落していった。
これなら動物を狙うよりも楽だ。敵兵は、前後にしか動けなくなっている。これも殿下が仕掛けた罠と伏兵作戦のおかげだった。
やっぱり、殿下はすごい。僕の夢は、殿下を助ける将軍になることだった。
カール殿下は、いつか王になる器だと確信していた。友達に話したら笑われたけど、僕は本気だった。お父さんを超える弓の名手となって、殿下に近づこうとする悪者を全員射貫く。それが、彼と出会ってから胸に隠していた夢。それがいま実現している。
だって、殿下は僕のヒーローだから。こんな猟師の息子のために、命を投げ出そうとしてくれた王族なんて聞いたことがない。
僕が崖から落ちそうになっていた時、彼はロープを身体に縛り付けて、助けに来てくれた。
「怪我はないかい、ネロ。気を付けなくちゃだめだぞ。お前には、将来、俺の護衛兵になってもらうんだからな」
僕をやさしく抱きかかえた殿下はそう言って笑っていた。泣きながら謝る自分をなだめながら。
順調に敵兵を撃っていると、自分のほほに鈍い痛みが走る。敵の弓攻撃だった。まさか、かなり距離があるぞ。それも、不利な下からの狙撃。
攻撃が飛んできた方向を見る。大きな弓を持った大男が笑っていた。
「そこの若い兵士。お主、なかなかの腕前と見た。私と勝負しろ。我は、百人隊長のマックス。教皇猊下にも賞賛された我が弓の味、とくとご堪能あれ‼」
次の敵の攻撃は、僕の隣の兵士の方を的確に射抜いていた。修正されてきている。次は確実にこちらが射抜かれる。つまり、チャンスは一撃だけ。いま、この手に持っている矢を、マックスに当てなくちゃいけない。
ならば……
「マックス百人隊長に答える。我が名は、ネロ。まだ、若輩にして、貴殿のような武勇はないが、いつかカール殿下配下の大将軍となる者。そして、主君を襲う邪悪を取り払う者‼」
準備をしておいたおかげか、一瞬だけこちらの攻撃が先に出た。敵の胸を打ちぬいた我が矢は、まるで誇ったかのように、猛将の胸に留まった。
「みごと」
マックスは短く呟いて、立ったまま絶命した。彼の死は敵軍に一気に動揺が走り、浮足立つ。
僕は勝ちどきを挙げた。
「敵将、討ち取ったり‼」




