第6話 歴史書②
歴史書『国家勃興記』
巻2 親政の始まりと旧王族の反乱
4月、教皇猊下、国名を神聖イスパール教国に改める。
旧・第三王シンを旧王都の領主に任命し、鎮守府将軍に叙する。また、教皇庁があるロマル市を新都と定め、旧・国王直轄領を臣下に分配する。さらに、クワンタ大司教を自身の後継者と認め、新都大主教に任命する。
各地で、旧王族の反乱が発生する。特に、旧・王弟ポーンの反乱は大規模だったが、シン鎮守府将軍の弟アレフ副将軍が奮戦し、その乱を鎮める。捕らえられたポーンと王都を脱出し乱に加わっていた元王族の大半は新都で処刑された。
ポーンの領土などは、クワンタ大主教を中心に配分された。しかし、最大の功労者であるアレフ副将軍に対する恩賞はわずかであり、騎士層を中心に不満が噴出していった。また、水面下で鎮守府将軍とクワンタ大主教の対立が始まっていった。これは、旧支配層の騎士層と新興勢力の教会側の代理戦争の面を有していた。
ただし、教皇猊下と鎮守府将軍の関係は良好なままである。それは、教皇猊下の政権は、鎮守府将軍の軍事力をもって維持している物であり、そこがなくなれば一挙に土台から崩れる恐れがあるためだ。クワンタ大主教はそこに危機感を持っており、教会側で領土を持ち、軍事力を拡大させるために、今回の論功行賞でかなり強引な配分を行った。
5月、旧王国の第十三王子・カール立つ。
後世の歴史家は語る。
旧王国を支えていた国王と王弟が倒れたことで、世の中の流れは少しずつ親政に傾きつつあった。両者とも他国からも評判高い将軍だったにもかかわらず、子であり甥である鎮守府将軍と鎮守府副将軍に圧倒されたのは衝撃的な事件であった。
彼らの軍事的な成功は、教皇新政に大きな正統性を与えたうえに、新しい改革を行う上で、大きな抵抗勢力に成り得た旧王族の排除を可能とした。ただし、両将軍がいなければ、親政が維持できないという事実が親政に大きな壁となるのは、また、皮肉な出来事である。




