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第4話 追手

 私たちはなんとか逃げ続けていた。シグルド王太子の嫡男カルロスは、逃げる途中で敵兵に見つかり処刑されたとうわさを聞いた。まさか、歳いかない6歳の

甥ですら、処刑されるとは……王国の嫡流は許さないということだろう。このまま、逃げ続けても、結局、私たちはずっと追われ続ける。兄の領土は、しょせん小さなもの。動かせる兵力だって数百。


 王国を滅ぼした軍は、もう十万以上の兵力を動かせるようになっているはずだ。


 この逃亡は、結局無意味だろうな。そんな不安感に心が押しつぶされそうになる。


「おい、王族を探しに行こうぜ。あいつらに懸賞金が出ている」

 食料を確保するために、立ち寄った街でそんな話が出回っていた。心臓が高鳴る。あの猟師たちだって、もしかしたら私たちを裏切るんじゃないか。


「兄さん……」

 心細くなって、兄の服の袖をつかんだ。


「大丈夫だ。生き残る手筈は、こう見えて整えているんだから。早く領地に帰って、ふかふかのベッドで眠りたいものだ」

 豪胆なのか、器が大きいのか、それともただ楽天的なのんきなのか。不思議と兄の笑顔を見ていると安心できる。


「若。そろそろいきましょう。狩りの獲物が逃げちまう」

 逃亡を助けてくれる5人の猟師は、私たちは若と呼んでいる。カモフラージュのために。

 再び獣道を進むと、林の奥から数人の兵士が巡回しているのが見える。持っている旗や装備から教皇側の兵士だとわかった。汗が止まらなくなる。


「グレイさん。プランBでいこう」

 兄は猟師のリーダーにそう言うと、グレイと呼ばれた彼はいきなり「こっちだ。こっちに王族がいるぞ」と叫んだ。


 裏切られた⁉ 一瞬そう思った。

 しかし、林から獲物を見つけるために、完全に顔を出した敵兵に対して、弓が射られて直撃していく。一瞬で12人の敵兵は絶命し、動かなくなった。


「さすがだね、グレイさん。じゃあ、行こうか」

 兄は、のほほんとしたいつもの口調で歩き出す。これも作戦なんだ。王族の名前を出して、敵兵をあぶりだすのも……


「兄さん‼ もし、もっとたくさんの兵が隠れていたらどうするつもりだったんですか」

 私は少しだけ抗議した。


「大丈夫だよ。こんな狭い森に大軍を置いたらそれこそ動けなくなる。だから、隠れていても少数の傭兵あがりのグループだと思ったんだ。そいつらは、普通、欲におぼれているからね」

 どうして、この人はこんな立地条件だけで、敵の詳細までわかってしまうんだろう。一瞬、ゾッとする。


「よし、行きましょう」

 この森を抜ければ、兄の領土は目と鼻の先だ。


 ※


―第三王子視点―


双子の弟アレフは満足そうに笑っていた。

「カルロスを処刑したことで、王国の嫡流は絶えた。これで教皇猊下の親政を邪魔するものはいなくなったな」

 ワインを飲みながら、玉座の間で会談する。


「いや、まだ王族の粛清は完了していない。数人の弟たちが逃げ出した。ポーン叔父上は、猊下の親政に対して、反乱を起こしている。まだまだ、やることだらけだよ」

 今回の事実上の軍事指導者は自分だ。よって、功第一。旧・王都を含む国王の直轄領の4割を褒賞としていただいた。そのうちの1割は、私欲がないことをアピールしたいので返還した。”教義の守護者”たるイスパールの領主という称号と、今後は鎮守府将軍という役割を担うことになる。


 残りの国王領や王族領は、教皇とその部下たちに配分される。これで政権のナンバー2の地位は確立された。戦う大司教・クワンタ以外に、僧侶たちが軍を指揮できないだろう。そのクワンタも教皇の次期後継者として、新たに新都大主教に任命された。宗教的な権威であれば、教皇に次ぐ地位だ。軍事力がこちらよりも弱いため政権ナンバー3と目されているが油断のならない難敵である。


「でも、兄貴。あと一人蹴飛ばせば、俺たちの目標に届くわけだ」

「ああ、そうだな。かつて誰もなしえなかった至高の存在。国王も教皇も超える唯一無比の地位まであと少しだ。頼むぞ、鎮守府副将軍」

 弟は頷くと、反乱を起こした叔父上を抹殺に向かった。


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