第3話 歴史書①
歴史書『国家勃興記』 巻1 神聖イスパール王国の滅亡より
大陸歴1233年。神聖イスパール王国シュバイン4世の治世。
王の権力はまずます、増長し、武力をもって国を治めようとした結果、社会は大いに乱れた。
神の代行者たる教皇、それに苦悩する。
1月、王都に封印されていた、王権神授の宝剣、こつ然と姿を消す。民衆は、凶報の前兆として、それを恐れる。
2月、王、教皇庁に軍を派遣する。大将軍はシグルド王太子、副大将軍はシン副宰相。20日、シグルド王太子、陣内で突然、憤死する。民、口々に「神意に背いた罰なり」と噂する。教皇、これをもって、王国の限界を悟る。教皇、副宰相と会談し、神の真意を語り、王の不忠を責める。副宰相、大いに涙し、王の不忠を謝罪する。副宰相、「たとえ、父殺しという罪を抱えようとも、神の真意に背くことはできない」と語り、双子の弟とともに軍を反転する。教皇、司教、司祭ともども、副宰相の厚き信仰心に感動し、涙を流す。教皇は、王国を教敵と認定した。
3月、国王親子、マリン川で相対する。しかし、国王軍寡兵にして、よく戦うもたちまち崩れ、国王、敗死する。王国最後の陸軍尚書ノース、国王敗死後も奮戦し、敵兵500を討つ。最後は流れ矢に当たり死す。王国魔導士隊、王都城壁防衛のために勇戦するも、副宰相お抱えの竜騎兵によって壊滅する。
王都防衛隊壊滅後、すぐに、王都は包囲され、陥落する。ほとんどの王族、討死し、神聖イスパール王国は滅亡する。国王に続き、シグルド王太子の嫡男カルロスは、重臣たちにともなわれて逃亡していたが、敵兵に見つかり、6歳ながら処刑された。王国の嫡流はこうやって途絶えた。教皇、その報を聞き、ただちに親政を宣言する。
副宰相、「王国は、神の代行者である教皇猊下をないがしろにし、武力に魅入られて腐敗した。我は、一王族だが、その過ちに気づき、不忠を正しただけである。我、王族として、いかなる罪をも受入れる。教皇猊下にただ従うのみ」と語り、親政を支持した。
後世の歴史家は語る。
圧倒的な栄華を誇った神聖イスパール王国がわずかな期間で滅亡したのは、民意が離れていたことに他ならない。もともと、神聖イスパール王国は、イスパールの地に侵入した異教徒集団から教皇猊下を守るために、組織された騎士団が母体である。特に、功績があった騎士団長を王に任じて、教皇領を守護する役割についていた。王権と教皇権は、表裏一体のものだったにもかかわらず、いつの間にか王権が暴走を始め、王権に正統性を与えるはずの教皇権にも介入したのは、越権行為だった。
国王の力は歴史が深まれば深まるほど強まっていったが、その過程でかつての主君に弓を引いたことになる。いかなる権力者も正統性を失えば、あとはその場を潔く去るだけである。民意は、それにひどく敏感である。




