第26話 決着
―クスキ将軍視点―
息子はすべて承知で任せてくれた。
「わが一族は、猊下によって見初められて、この表舞台に立てたのです。どうして、ここで裏切ることができましょうか。父上、さきに天で待っておりますので、どうか鎮守府将軍と共に昇ってきて下され」
ワインを共に酌み交わして、根性の別れを終えた我々は、すでに覚悟は決まっている。玉砕覚悟の総攻撃だ。たしかに、数千の伏兵を隠すことは難しいが、30人ならそうでもない。森の中でバラバラに隠れて、合図があれば集結。敵の背後をつく。
敵の本陣にいる兵力は、おそらく数千。
数千対三十。数は絶望的に足りないが、覚悟さえ決まっていれば、ある程度戦える。作戦次第で一矢報いることも可能かもしれない。カールという天才に比べれば、私はまだまだかもしれないが、それでも……
合図が聞こえた。息子が散ったことを意味する無情な花火の音。
一瞬、目を閉じて、自分の罪深さをかみしめる。
「一人にはさせないぞ」
旗下の魔導士に目くばせした。昔から仕えてくれている老魔導士は、笑うと、敵の本陣に向けて、すべての魔力を解き放つ。その不安定で巨大な魔力は暴走し大爆発を引き起こした。父のように慕っていた老魔導士は苦しそうな顔を隠しつつ笑って倒れ、そのまま絶命した。
これが、我が軍の覚悟だ。
こちらは馬に乗り、精鋭二十九人とともに突撃を開始する。奇襲を受けた敵の本陣は大混乱し、大きな音によって、馬たちが暴れている。
「敵襲」
誰かがそう叫んだ。
私を中心に円を築いている味方達は、立ちふさがる敵兵をことごとく打ち破っていく。さらに、敵の塊を突破した後は、一人の兵士がその場に残り、その兵士が足止めとなって、最後は魔力玉によって自爆する。少しでも多くの敵兵を倒し、時間を稼ぐために考えた策だった。
まるで、兵士を数字としか考えないような冷徹な作戦。しかし、これを話したうえで味方達は進んで志願してくれた。だからこそ、これは失敗できないのだ。
ついに敵の本陣が見えた、鎮守府将軍は、椅子に腰かけて、こちらをにらんでいる。逃げるつもりはないということか。僥倖だ。
近づいてしまえば、自爆で確実に道連れにできる。確実に致命傷を与えられるところまで近づくために、馬を叩きスピードを上げる。
しかし……
それは、たぶん偶然だったはずだ。馬の脚に槍が突き刺さった。槍の持ち主をにらむと、息子と同じくらい若い兵士だ。この若い兵士は、槍を振るったら、偶然当たってしまったようで、恐怖で顔が歪んでいる。
「そうか。これは、私に対しての罰なんだな」
落馬し、地面にたたきつけられた、味方に敵兵が殺到している。これ以上、近づくことはできない。
だが、一か八か。ここで作動すれば……
「わが名はクスキ。志半ばでこうなってしまったが、鎮守府将軍の裏切りは許せるものではない。これは天誅である」
隠し持っていた魔力玉を起動し、恨みを込めて、若き将軍をにらむ。
「せめて、お前だけは連れていくぞ、シン」




