第25話 カールの予測とクスキの策略
―ハルク視点―
「陛下、鎮守府将軍が反転し、新都を目指しているようです。このままでは、クスキ将軍率いる守備隊と激突することは必然」
こちらの報告に、陛下は顔の色も変えずに「そうか」と答えた。普通なら北朝が二分することになる大事件なのに、予想済みということか。
「これで、兄上が北朝のすべてを握ることになるだろうね。教皇猊下は完全に人形となる。でも、別の可能性が残っている。僕たちとしては、そちらに進む方が嬉しいんだけどね」
「別の可能性?」
「そう。クスキ将軍はきっと自分が捨て石となるつもりだ。教皇猊下と新都大主教を逃がし時間を稼ぐために勝とうとしていない。戦術的な立場で言えば、クスキ将軍はここで死ぬつもりだ。でも、戦略的な勝利条件は、クスキ将軍は自分の命を犠牲にしても、それを満たすことができる」
戦場のことを語る主は、まるで哲学者のように見えた。
こちらが理解できていないとみると、わかりやすく教えてくれる。
「クスキ将軍は、戦場で死んだとしても、鎮守府将軍である兄上と相打ちになれば、勝ちなんだよ。アレフ兄上やオールドという優秀な部下がいるとしても、彼らでは兄上の後を継ぐことはできない。どこかで空中分解する。そうすれば、クスキ将軍は教皇猊下たちを守ることができ、鎮守府将軍による政権乗っ取りを防ぐという戦略目標は達成可能だ」
「陛下はどちらが勝つと思いますか?」
「たぶん、ふたりは後世にも名前を残すはずの名将だ。それもかなり拮抗している。だから、50パーセント。どちらが戦略的目標を達成してもおかしくない」
いつものように優しい声色だが、そこにとてつもないくらい黒いものを持っているようにも見えた。
ここでシン鎮守府将軍とクスキ将軍の両名が相打ちで消えれば、カール様に立ち向かえる人間はほとんどいなくなる。そうすれば、戦乱が終わる。
カール陛下が、天下を取りに行く。その野心を心に隠しているようにも見えた。
※
―アレフ将軍視点―
クスキを名乗る立派な甲冑を着た男は大きな槍を振るい、こちらの兵をなぎ倒していく。
銀色の鉄仮面が赤く汚れていた。顔は見えないが、この強さなら将軍本人だろう。
ここは、私が行くしかない。
「わが名は、アレフ鎮守府副将軍。クスキ閣下と見受けられる、イザ、勝負」
こちらは機動力を生かして、クスキに近づいた。
敵の強烈な槍攻撃は、なんとか剣で抑えるが、手がしびれるほどの強力な攻撃だ。
部下たちも、こちらを援護してくれるが、次々と倒れていく。
だが、数の力で押せばいい。さらに、兄上の親衛隊である竜騎兵まで駆けつけてくれた。
小型の竜にのって空中から攻撃が可能な精鋭の前に、さすがのクスキも攻撃が届かずに、ついに自分に致命傷を受けた。
竜騎兵の空中からの接近で、ついに槍を落としてしまったところを、こちらも見逃さなかった。
自分の一刀が急所を打ち、地面に崩れ落ちる。
そして、槍を持った兵士たちがめった刺しにした。これで苦しまずに天に昇ることができるはずだ。名将の冥福を祈りながら、鉄仮面を外させる。そこには安らかな顔で眠っている若者がいた。
違う。クスキ将軍ではない。彼は……
クスキの息子⁉ まさかハメられたのか。
大きな爆発音が聞こえた。そちらの方向を見ると、兄上がいるはずの本陣だった。奇襲か? 親衛隊も主力もこちらにいるということは本陣は手薄。
ハカられた。まさか、息子すら犠牲にしてでも、兄上の首を取るつもりか⁉
本陣に合流するべく、急いで兵を引き返す。しかし、兵たちは疲弊し、ゆっくりとしかこちらの命令に従うことはできなかった。




