第24話 背水の陣
―鎮守府将軍視点―
弟と合流し教皇領まであと少しのところで足止めされた。教皇領軍区の司令官クスキ将軍配下の兵5000が待ち構えていたからだ。それも、3つの川が入り組んだ地形に陣取っている。
「あれでは撤退もできない不利な地形にいるな。まさか、クスキ将軍ほどの武人が?」
配下の兵がそういぶしがっていたので、答えてやった。
「それは違う。将軍は、背水の陣で戦うつもりだ。撤退することなど微塵も考えていない。ここで玉砕して、少しでも時間を稼ぐつもりだろうな」
自分から恩義に報いるために捨て石になろうとしている。あれほどの才覚を持った男が、なんとももったいない。
「アレフに先陣を任せる。いくら名将とはいえ、この戦力差だ。なんともしがたいだろう。数の力で押し切る」
これがこちらの基本戦略だ。敵よりも多くの兵を集め、その兵力差を生かして優勢を築く。そして、そのまま押し切る。相手は奇襲でしかこちらを倒せない。だから、奇襲さえ注意すれば大丈夫。
ここは開けた土地だ。その奇襲される心配も限りなく低い。こういう地形なら上流で川をせき止めておき、こちらが近づいたところでせき止めていた水を放流するという作戦もあるにはあるが、こちらが電撃的に侵攻している。そんな用意ができる時間的な余裕もないはずだ。
理論的に完ぺきな戦いかた。ここまで追い詰めれば、歴戦の名将とはいえ、自分を捨てることしかできない。
前衛が怒涛の勢いで敵陣に突撃していく。これで終わりだ。
※
―アレフ副将軍視点―
戦闘が始まって2時間。明らかに情勢は優勢だ。だが、こちらもかなりの被害が出ている。敵の士気は旺盛だ。死ぬとわかっていても、一人でも多くの兵を道連れにするつもりらしい。こちらの隊長クラスにも死者が出始めてきている。
「死なぼもろとも」
一人の敵兵は、そう叫んで両手に我が軍の兵2人を挟んで、川に身を投げていた。
魔力が使える兵は、致命傷を受けると、「クスキ将軍、万歳。教皇猊下、万歳」と叫んで自爆する者もいる。覚悟が決まっている敵兵を前に、士気ではこちらが圧倒されているときもあるくらいだ。だが、敵の本陣には少しずつ近づいている。大丈夫、あとは力で押すだけだ。
敵も本陣に迫られて、ここまでかと思ったのだろう。
立派な防具を着飾った兵たちが前線へと向かってくる。最後の突撃が近いようだな。
そして、かの名将もそこにいた。
「我こそは、教皇領軍区司令、クスキである。我こそはと思う者、前に出るがいい。地獄への道案内にしてやる」




