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第23話 捨て石

―クスキ将軍視点―


「まさか、こんなにも早く教皇親政が崩壊寸前に至るとはな。世も末だ」

 領土に戻るはずだった鎮守府将軍が反転し、約4万の兵を率いて新都に接近中。名目は、襲撃事件で露呈した教皇殿や新都の治安悪化に備えるためということだが、これは事実上のクーデターであろう。


 そもそも、教皇領軍区に駐屯する我が兵力は、5千人。その八倍の兵力が迫っている。大主教猊下も慌てて、自領に戻り、僧兵をかき集めているが、それでも1万に届くかどうか。合計1.5万の兵力で、3倍に近い鎮守府将軍の兵を抑えなくてはいけない。


「それでも、クスキ閣下なら……」

 部下はそう言って奇跡を信じてくれていた。だが、相手は天下の名将だ。圧倒的な優勢を築かれている以上、勝つことは厳しいだろう。


「アーリー城の再現を狙うしかないか」

 それは、半年前に俺がわずかな兵力で、2万人の王弟軍を打ち破った奇跡と称される戦いだ。その功績で、田舎豪族の自分が教皇領軍区の司令官にまで上り詰めることができた。


「上申します。猊下には、一度、新都を離れていただき、天然の要害であるグランド・フィールドに籠っていただきたい。いくら鎮守府将軍でも、あの要害を攻め落とすには時間がかかります。その間に我々がゲリラ作戦で、敵の補給路を遮断し、将軍を撤退に追い込みましょう」

 しかし、一人の僧がそれに猛反対を始めた。


「なりませぬ。猊下が教都を捨てるなど、あのロマネスク捕囚事件以来の屈辱。ただでさえ、南朝という対抗馬がいる状態であれば、我が教皇の正統性に揺らぎが発生する。どうにか、新都を維持したうえで戦うべきだ」

 この発言に、軍事を理解できていない司祭たちは、大いに拍手し、それを支持した。本来であれば、新都大主教がそれを抑える立場なのだろうが、彼は領地に戻り、兵を集めているため不在だ。

 つまり、我々は少数の兵で、正面から敵と戦わなくてはいけなくなったということになる。権力だけは持っている司祭たちに、抗うことも難しかった。しかし、大恩ある教皇猊下を見捨てることもできない。しかし、ここで私が負ければ、猊下はグランド・フィールドに撤退しなくてはいけなくなる。選択肢はなくなるのだ。大主教猊下には、戦場ではなくそちらに向かってもらうしかない。


 大主教猊下の兵を温存し、私の手持ちの兵だけで、圧倒的な兵力を持つ鎮守府将軍に打撃を与え、進軍スピードを遅らせて、猊下の側近に現実を教えつつ、撤退を促す。


 完全に捨て石となるが、ただでは終わらない。せめて、鎮守府将軍と相打ちにもちこめれば……歴史に名を残すことくらいはできるだろう。


 捨て石となる覚悟を固め、剣を握った。


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