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第21話 陰謀

―新都大主教視点―


「これは、これは鎮守府将軍閣下。残念でしたな、ミズレーン要塞が陥落するとは」

 あえて、嫌味をぶつける。ここは教皇殿の右の廊下だ。


「ええ、全ては私の責任です」

 思わず変な声をあげそうになる。まさか、この男が自分から非を認めるとは。


「しかし、これではどこに裏切者や王党派シンパがいるかわかりませんな。特に、軍のほうは注意していただかなければ……」


「ええ、司祭派のミラーの件もありますしね」

 やはり、嫌味には嫌味で返してきたか。


「ふん、減らず口を」

 まあいい。これでやつの権威を弱めることはできた。


「安心してください、大主教。私はしばらく、領地にて謹慎させていただきます。猊下のことはお任せしました。念のため、我が弟アレフを新都に置いていきますので、何なりとお申し付けください。2日後に、新都に到着予定です」

 ふむ、どうやらダメな弟にミズレーン要塞を陥落させられたことが相当、ショックだったようだな。エリートの弱みである挫折後の反動がひどい。


「ええ、ゆっくり、お休みください。ここは、我に任せて」

 シン将軍は、この後すぐに、教皇猊下と面会し、猊下の慰留を丁寧に断って、自分の領土に退いた。


 そして、事件は起きる。

 旧・王党派により、教皇殿襲撃事件である。


 ※


―教皇殿のとある衛兵視点―


「ねむい」

 当番で深夜番になってしまったが、ここに誰かが攻めてくるなんてわけがない。

 教皇猊下の護衛は名誉なことだが、ただ立っているだけの護衛はきつい。


「ん?」

 悲鳴のような声が聞こえた。まさか、お化けか?

 一緒に当番を務めているピーターの方を見たが、彼は暢気にあくびをしていた。


「どうした?」


「悲鳴みたいな声が聞こえなかったか?」


「あん、怪談はやめてくれよ。どうせ、野良猫の鳴き声とかだろう」


「だよな」

 しかし、何かがきしむ音もした。遠くで怒号と門を強くたたく音。お互いに顔を見合わせる。これはただ事ではない。すぐに、上に報告して……


 そうこうしているうちに、こちらに向かって10人程度の足音が迫ってきた。

 剣を身構える。視覚上に敵の影が見えた。やらなくてはやられる。

 だが、敵の矢によって、こちらが肩を射抜かれてしまった。鈍い痛みで崩れ落ちる。殺される。


 そう思った瞬間だった。後ろから巨大な大男がやってきて、俺たちの前に進む。


「ここは教皇猊下がいらっしゃる神殿。そこで狼藉とは……我は新都大主教・クワンタ。私の目の黒いうちは、ここは通さんぞ」

 負傷した我々をかばうように、大主教は、巨大な槍を持ち立ちふさがった。


 飛んでくる弓すら槍で叩き落とし、大主教は前進し、ことごとく侵入者たちを切り捨てていく。

 こうして、教皇殿襲撃事件は、大主教のとっさの判断と武勇で終幕を告げた。しかし、これはこれから始まる歴史的な事件の序章にしか過ぎないとは、僕たちは知らなかったんだ。


 ※


―鎮守府将軍視点―


「そうか、教皇殿が襲撃されたか」

 同じ馬車に乗ったオールドと共に、報告を聞く。向かいの側近は笑っていた。


「道が開けましたな」

 そう、ふてぶてしく笑う痩せて青白い顔をしている男はとんだ道化師だ。

「ああ、君のおかげでね」

「何をおっしゃいますか」

 

 すでにアレフもことの重要性を理解しているだろう。ならば、やることはただひとつ。


 天下を取りに行く。

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