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第19話 新国家

―ハルク視点―


 本当に殿下には驚かされた。いや、陛下か。わずかな手兵で教皇軍の大軍を撃破し、歴史上で誰も落とせなかったミズレーン要塞まで陥落させた。グズール砦は現在増強中で、工事が完了すれば、領土を守る2大要塞になるだろう。


 そして、混乱の中で、ビスマルク派のオットー前大主教を祭り上げて、新たな教皇に擁立し、2人の教皇が生まれた。これは、あの前教皇の乱がおきた時ですら、発生しなかった異常事態だ。


 陛下は、領都をそのまま新都ユーサー・ペンドラゴンと改称してしまった。これは、建国の父の育て親になった騎士の名前だ。王国の権威を継ぐ存在と内外にアピールし、これで事実上、1か月前に滅んだ神聖・イスパール王国は復活を果たした。


 彼の能力を疑問視していた人間ですら、この結果には何も言えなくなっている。いや、言えるはずがない。有史以来、誰もなしえなかったことを、彼はラクラクとこなしてしまったのだから。


 そして、私は……


「ハルク・フォン・ローザンベルク。行政官の任を解き、主を新たに王国宰相の地位に任命する。また、従二位に任ずる」


「謹んでお受けいたします」

 宰相になっていた。そもそも、行政官が正四位の地位である役職だったが、従三位、正三位を吹っ飛ばしての三階級特進となった。本来、田舎貴族出身の自分が就くことができない地位であるが、途絶えていたローザンベルク侯爵家の養子となることで、歴史的な正当性を担保したうえでの就任だ。こういうところはしっかりしている。


 だいたい、田舎貴族は従四位になれただけでも、異例の出世と言われる。


従四位:地方の長(田舎貴族の出世の限界)、中央省庁の局長級

正四位:特に重要な地方の長や中央の省庁の次官級、将軍

従三位:軍管区の長や省庁の大臣(尚書)、複数の軍団を指揮する将軍

正三位:財務・軍務・外交を司る重要省庁の大臣

従二位:宰相、元帥

従一位:特に功績が大きい宰相・元帥、王族の中で抜群の功績を残したもの

正一位:摂政や准国王、准太政国王


 自分で位階の表を作り、とんでもない地位にたどり着いてしまったと震えていた。

 そして、徹夜で作っていた組閣人事を陛下に手渡す。


国王陛下:カール13世

王国宰相兼財務尚書:ハルク・フォン・ローザンベルク

王国副宰相兼国務尚書:ピエール・フォン・グーテンベルク

軍務尚書:ミラー中将

 魔道総監:ユフィ中将

クズール要塞司令:グレイ少将

 ミズレーン要塞司令:グワガン少将

  近衛騎士団長:ネロ大佐


 その他の農務尚書などの役職は、領都付きの官僚がそのまま繰り上がっている。


 しかし、異例の人事だ。まず、猟師だったグレイなどすぐに将軍だ。砦防衛や殿下たちの護衛の功績が大きいから、そちらについて、文句は言えない。しかし、敵だったミラーとグワガンがそのまま要職で採用されていること。これは陛下にさすがに様子を見るように伝えたところ、すぐに拒否された。


「うちの人材の中で、ミラーとグワガン以上に大軍を指揮できる人はいないだろう。クズール要塞のように小規模でも防衛できるなら、グレイさんに任せられるけど、あの規模の大要塞は軍事的知識をしっかり持っている人物のほうがいい。なら、要塞に詳しいグワガンが最適だ」


「しかし、ミラー殿は教皇側の要職にいた人物……」


「だからこそ、能力は保証されているだろう?」

 それ以上は何も言えなかった。一度信じたと決めた相手は、まるで赤子のように信じてくれる。この人事をミラーに伝えたとき、動揺と感動で顔がぐちゃぐちゃになっていた。


 仕方があるまい。私はそういう、国王陛下のことを信用してしまったのだから。

 さあ。課題が山積みだ。安定的な食料供給の確保、税制の安定、補給路の確保。頭が痛くなくなりそうだが、充実感に燃えていた。

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[一言] 適材適所( ˘ω˘ )
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